交通事故によって被害者が死亡した場合に、加害者に請求できる損害には、入通院治療費、付添介護費、入院雑費、入通院交通費等の治療にかかった費用のほか、①葬儀関係費用・遺体搬送費用、②死亡による逸失利益、③慰謝料などがあります。今回は、被害者が死亡した場合特有の損害項目について説明します。
多くの損害項目は定型化・定額化されていますが、自賠責保険が用いる基準、任意加入の保険会社が用いる基準、弁護士や裁判所が用いる基準といった、複数の異なる基準があります。今回は、弁護士や裁判所が用いる基準をもとに説明しますが、いずれもあくまで一応の目安にとどまることにご留意ください。
1 葬儀関係費用・遺体搬送料とは
加害者に請求できる葬儀関係費用には、葬祭費、供養料、墓碑建立費、仏壇費、仏具購入費などがあります。他方で、香典返しは損害として認められませんが、受領した香典(の価額)が損害から控除されることはありません。
葬儀関係費用の基準額は150万円前後でこれを超える支出があっても損害として認められないことが多いほか、反対に、支出額がこれを下回る場合には実際に支出した金額のみを損害として計上できるにとどまることがあります。
なお、遺体搬送料は、葬儀関係費用とは別個の損害として計上します。
2 死亡による逸失利益(いっしつりえき)とは
交通事故の被害者が死亡すると、もし被害者が生きていれば得られるはずであった将来の収入がなくなってしまいます。そこで、その分の損害を「死亡による逸失利益」として被害者の「遺族」が請求することができます。
しかし、被害者が死亡した場合には、将来得られたはずの収入が損害となる一方で、被害者自身の生活費の支出はないので、逸失利益からは生活費が控除されます。
逸失利益の計算方法は、被害者の基礎となる年収から、本人の一定割合の生活費を控除した額に、原則として就労可能年数に対応するライプニッツ係数を乗じて算出します。
逸失利益=[被害者の年収]×[1-生活費控除率]
×[就労可能年数に応じたライプニッツ係数]
※生活費控除率は、被害者が一家の支柱である場合には30~40%、被害者が独身男性の場合は50%など、それぞれ異なります。
※将来得られる収入を一度にもらうため、将来の分は一定割合の利息分を差し引く必要があり、そのためにライプニッツ係数をかけることとされています。
(1) 給与所得者
給与所得者は、原則として事故前の現実の収入額を基礎として算定します。
(2) 事業所得者
自営業者、自由業者、農林水産業者などについては、原則として事故前の申告所得を逸失利益額算定の基礎として算定します。
ただし、申告額が実際の収入額よりも低いときは、申告額よりも実際の収入額より高いことを立証できれば、実際の収入額を逸失利益額算定の基礎とすることになります。
(3) 会社役員
会社役員の報酬のうち、労務提供の対価と考えられる部分は算定の基礎として認定されますが、利益配当の実質をもつ部分は、算定の基礎として認められない場合もありますので注意が必要です。
(4) 主婦(夫)
主婦(夫)は、原則として賃金センサス(厚生労働省が毎年発行する平均給与の総計表)の女性労働者の平均賃金を基礎として算定します。
ただし、仕事をしながら家事をしている場合で、実際の収入が賃金センサスの平均賃金以上のときは実際の収入を算定の基礎とし、通常は、家事労働分の加算は認められません。
(5) 幼児など年少者・学生
原則として、賃金センサスの男女別全年齢平均の賃金額を基礎として算定します。
また、事故時に進学していなくても、短大や専門学校、大学への進学が確実視されている被害者については、既卒としてそれぞれの学歴の賃金センサスを基礎として算定に用いる例が多いです。
(6)失業者
無職者であっても、事故時に通常の労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性がある場合には、逸失利益が認められます。再就職によって得られるであろう収入を基礎とすべきで、その場合、特段の事情のない限り失業前の収入を用いて算定します。ただし、失業以前の収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスを基礎に算定することになります。
(7)年金受給者
被害者が死亡時に年金等の支給を受けていた場合には、年金の受給について、逸失利益の発生が認められることがあります。国民年金(老齢年金)は逸失利益が認められる一方、遺族年金や障害年金の加給分は逸失利益が認められないなど、年金といっても種類によって異なりますので、一度ご相談いただくことをおすすめします。
(8)高齢者
事故時に就労していた場合には、逸失利益を請求できることがあります。
他方、事故時に就労しておらず、年金の受給もなかった場合には、通常、逸失利益を請求することはできません。ただし、家族のために家事労働をしていた場合や、労働能力、労働意欲、就労の可能性が高かったことなどからから、事故にあわなければその後、仕事に就き収入を得ていたと考えられるときは、就労の可能性があれば、賃金センサスの学歴計、男女別、年齢別平均の賃金額を基礎とすることができます。
3 死亡慰謝料とは
被害者が死亡した場合には、被害者本人分の慰謝料と被害者の遺族の慰謝料を損害賠償として請求できます。
弁護士や裁判所が用いる基準による金額の目安は、次のとおりです。(あくまでも目安であって、裁判上もこの金額で満額が認められることばかりではありません。)
一家の支柱であった者 2800万円
母親・配偶者の場合 2500万円
その他の場合 2000~2500万円
この金額には、近親者固有の慰謝料が含まれているものとして運用がされていることから、通常は、別途近親者固有の慰謝料請求をすることはありません。
注意点
事故の原因が被害者にもある場合には、被害者の過失割合を控除した金額を請求することになりますので、上述の金額がすべて認められるわけではありません。この点については、別の記事で説明しますので、そちらをご覧ください。
まとめ
上記のように、請求できる金額は、過失割合、被害者の立場や属性によって異なります。適切な金額を請求するために、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
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