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通院方法④

以前通院方法に関する記事で、整形外科と接骨院の違いや通院頻度について説明をさせていただきました。今回は、「保険の打切り」を理解するために自賠責一括制度の説明と保険の「早期」打切りを避けるための通院方法を説明いたします。
まず前提問題として、よく聞く「保険の打切り」とはどういう現象なのでしょうか。ご相談者から、被害者の意見も聞かずに、一方的に打ち切るなんて許されるのでしょうかとのご質問を受けます。結論として、保険の打切りが一方的になされてしまうのは制度の仕組み上仕方がありませんし、違法の問題が生じる余地は殆どありません。その理由は自賠責一括制度の仕組みにあります。
そもそも、交通事故にあった被害者は、誰に何を請求できるかといいますと、基本的には事故の加害者に対し、直接治療費などの損害の賠償請求ができるにとどまります。法律的には、被害者が怪我の治療のために医療機関や接骨院などへ通院した場合、診療契約は、被害者とその医療機関の間に生じますので、治療費の支払義務は、法的には被害者の方に発生し、加害者の方が直接医療機関に治療費を支払う義務を負うわけではありません。あくまで被害者の方が、先に医療機関などに治療費を支払い、その支払額を加害者に対し請求できるにとどまります。
最終的には、適正な治療費は確かに自賠責から出ますが、あくまで被害者の方が受診し治療費を支払った後(医療機関は被害者からの申出による指図払いは基本的に応じてくれません。)に、自賠責に被害者自身で支払いを求めるのが自賠責制度の基本的な構造になっています。しかしこれでは、事故にあった被害者に重い負担となるため、各任意保険会社は、自身の契約者が加害者となった場合に、被害者が行うべき自賠責保険への治療費償還手続を代行し、任意保険と一括して治療費や慰謝料などの支払いを行う対応をしています。これを自賠責の一括対応と呼んでいます。
そして、相手が加入している任意保険会社は、相手が加入している自賠責保険では賄えない損害の賠償義務があるに過ぎず、自賠責保険で賄える範囲の損害については対応義務がありません。また、被害者の方が直接相手の任意保険会社に保険金の支払いを請求できるケースは保険約款上限られていますので、任意保険会社に当然に治療費などを支払うように請求はできません。
つまり、あくまで、この自賠責一括対応は、任意保険会社による被害者のためのサービスに過ぎません。そのためそのサービスをどの段階で撤回しても基本的に違法の問題も生じません。被害者の意見を聞くのはあくまで全体的な円満な解決を目指すという側面と、被害者の治療状況を確認して、治療期間を適切な範囲にとどめたいという保険会社の思惑とが重なって対応されているだけでして、被害者の通院継続の意見があっても任意保険会社が保険対応を終了することに法的な問題はありません。
そのため保険の打切りを回避するためには、この自賠責一括対応はあくまで円満解決のためのサービスに過ぎないという出発点を押さえなくてはなりません。
では次に、保険の「早期」打切りを回避するためのポイントを説明します。
「早期」打ち切りを招いてしまうポイントを知ることで、「早期」打ち切りを避けることができると思いますのでこの点を挙げていくと
・過剰通院、濃厚通院がなされていないか
・過少通院となっていないか
・症状の変遷がなく症状固定とみられるような主訴の申告になっていないか
・法的な基準を超える要求を行っていないか
・長期のタクシー利用や長期の休業損害の請求を行っていないか
・多部位の治療を行っていないか
・事故態様が一般的に小規模損害といわれるものになっていないか
となります。
上記ポイントを一つずつ説明したいのですが、分量も多くなってしまうため次回の記事に譲って今回はここまでにしたいと思います。

通院方法③

前回のブログでは、「保険の打切り」がどういう制度に基づいてなされるかについて説明させていただきました。今回は、その中で触れた保険の打切りを招く要因について説明させていただきます。
交通事故による怪我の治療に対して、保険制度を利用して治療費を支払うという制度であることを念頭におき、保険の打切りを招いてしまう要因を独断で①保険制度②治療経過③その他に分けて説明します。
【保険制度上の打切り要因】
保険制度上の打切り要因としては、「過剰通院、濃厚通院」「多部位の治療」「長期タクシー利用、長期の休業損害の請求」といったものがあります。
前回のブログで、自賠責一括制度の説明をさせていただきました。加害者が加入している保険会社は、自賠責の範囲(傷害枠120万円)を超える責任部分を担当しているけれども、自賠責部分も一緒に対応していることを説明させていただきました。
冒頭で説明しました保険制度上の打切り要因は、この自賠責の傷害補償枠120万円の限度枠と関連します。
簡単にいえば、被害者の方の治療費、交通費、文書料、休業損害、慰謝料などが自賠責保険の保証枠120万円に収まれば、保険会社は自分の責任部分(保険会社のお財布)からの出捐はないことになるため、保険会社には早期打ち切りを行う絶対的な動機が存在するのが原因です。
保険会社は、独自のシステムで治療中の通院の回数や休業損害の支払等から、賠償金の積算を行っており、その金額が120万円に近づくと自賠責保険の打切りを検討します。もちろん120万円に近付けばすぐに打切りをするわけではありませんが、多くの他覚所見のないむちうち損傷事案では、自賠責の枠を超えてまで補償を行おうという姿勢は低いことから打ち切りの対象となります。
このような観点から、上記打切り要因を説明しますと、
まず①の要素ですが、「過剰通院、濃厚通院」は、毎日通院に行ったり、通常の治療頻度を越えて消炎鎮痛処置、機能改善リハビリ、ブロック注射の施行などを頻回に行うことを指しています。
外傷による保存療法は、毎日実施したからといって回数分治療効果が比例的に増加するわけではありません。
過剰・濃厚な通院は医学的な正当性が薄弱になるとともに、不用に治療費を増大させることで、早期に保険会社のお財布から治療費を支出しなければならない状態になります。保険会社の肩を持つわけではありませんが、大きな事故で数百万円の治療費がかかっても保険会社は、受傷が相当で、それに対する治療費が適正であれば治療費が高額になっても支払わないわけではありません。あくまで、他覚所見がないむちうち損傷のような症状の保存療法を典型例とする治療については、どうしても自賠責の枠との関係で打ち切りの問題がでてきます。
同様に、「長期タクシー利用」は交通費という被害者の手元に残らない費用で自賠責保険の枠を使うため早期打ち切りに繋がります。タクシー利用が認められるかは、過失の多寡とは関係ありませんので、追突事故のような自身に過失がない事故だからといって症状からして必要性の薄いタクシーでの通院を継続していれば打切りはすぐに迫ってきます。また、「休業損害」についても、確かに事故で身体が辛く仕事を受傷直後に数日休むのは一般的にはあるかもしれません。しかし、他覚的所見がないむちうちの症状で1カ月以上も連続して全休したりすれば、本来働けばもらえたお給料を、自賠責の枠から支出するだけで早期の打切りを招きます。最終的に手元に残るお金は働いていない分少ないのが通常です。「多部位の治療」についても、身体に多くの負傷部位が生じるのはやむを得ないことですが、全ての怪我が同じように症状が続くわけではないため、症状が軽快した部位については治療対象から外していくことが大切です。保険会社も、傷害部位が多いことは多少考慮しますが、部位が増えた分だけ支出できる治療費の予算が倍増していくわけではないため、治療費の削減を被害者も意識する必要があります。
分量が多くなってきましたので、打切り要素②以降は次回のブログに持ち越させていただきますね。

~通院方法②~

以前通院方法に関する記事で、整形外科と接骨院の違いや通院頻度について説明をさせていただきました。今回は、「保険の打切り」を理解するために自賠責一括制度の説明と保険の「早期」打切りを避けるための通院方法を説明いたします。
まず前提問題として、よく聞く「保険の打切り」とはどういう現象なのでしょうか。ご相談者から、被害者の意見も聞かずに、一方的に打ち切るなんて許されるのでしょうかとのご質問を受けます。結論として、保険の打切りが一方的になされてしまうのは制度の仕組み上仕方がありませんし、違法の問題が生じる余地は殆どありません。その理由は自賠責一括制度の仕組みにあります。
そもそも、交通事故にあった被害者は、誰に何を請求できるかといいますと、基本的には事故の加害者に対し、直接治療費などの損害の賠償請求ができるにとどまります。法律的には、被害者が怪我の治療のために医療機関や接骨院などへ通院した場合、診療契約は、被害者とその医療機関の間に生じますので、治療費の支払義務は、法的には被害者の方に発生し、加害者の方が直接医療機関に治療費を支払う義務を負うわけではありません。あくまで被害者の方が、先に医療機関などに治療費を支払い、その支払額を加害者に対し請求できるにとどまります。
最終的には、適正な治療費は確かに自賠責から出ますが、あくまで被害者の方が受診し治療費を支払った後(医療機関は被害者からの申出による指図払いは基本的に応じてくれません。)に、自賠責に被害者自身で支払いを求めるのが自賠責制度の基本的な構造になっています。しかしこれでは、事故にあった被害者に重い負担となるため、各任意保険会社は、自身の契約者が加害者となった場合に、被害者が行うべき自賠責保険への治療費償還手続を代行し、任意保険と一括して治療費や慰謝料などの支払いを行う対応をしています。これを自賠責の一括対応と呼んでいます。
そして、相手が加入している任意保険会社は、相手が加入している自賠責保険では賄えない損害の賠償義務があるに過ぎず、自賠責保険で賄える範囲の損害については対応義務がありません。また、被害者の方が直接相手の任意保険会社に保険金の支払いを請求できるケースは保険約款上限られていますので、任意保険会社に当然に治療費などを支払うように請求はできません。
つまり、あくまで、この自賠責一括対応は、任意保険会社による被害者のためのサービスに過ぎません。そのためそのサービスをどの段階で撤回しても基本的に違法の問題も生じません。被害者の意見を聞くのはあくまで全体的な円満な解決を目指すという側面と、被害者の治療状況を確認して、治療期間を適切な範囲にとどめたいという保険会社の思惑とが重なって対応されているだけでして、被害者の通院継続の意見があっても任意保険会社が保険対応を終了することに法的な問題はありません。
そのため保険の打切りを回避するためには、この自賠責一括対応はあくまで円満解決のためのサービスに過ぎないという出発点を押さえなくてはなりません。
では次に、保険の「早期」打切りを回避するためのポイントを説明します。
「早期」打ち切りを招いてしまうポイントを知ることで、「早期」打ち切りを避けることができると思いますのでこの点を挙げていくと
・過剰通院、濃厚通院がなされていないか
・過少通院となっていないか
・症状の変遷がなく症状固定とみられるような主訴の申告になっていないか
・法的な基準を超える要求を行っていないか
・長期のタクシー利用や長期の休業損害の請求を行っていないか
・多部位の治療を行っていないか
・事故態様が一般的に小規模損害といわれるものになっていないか
となります。
上記ポイントを一つずつ説明したいのですが、分量も多くなってしまうため次回の記事に譲って今回はここまでにしたいと思います。

車両塗装~車両損害③~

修理に関する争点でよくご質問があるのが塗装に関するご相談です。
塗装については、全塗装に応じてもらえないかという部分が多いのでこの点の説明をいたします。
青本を確認すると、「一部塗装による色むらが生じるとして全塗装の要求がなされることがあるが、裁判例は特段の事情が認められる場合以外は消極的である」とされています。
裁判例上は、現在の補修用塗料自体が、メーカー自身が供給しており、その性能は新車時になされる焼き付け塗装によるものと基本的には異ならないとされています(東京地判平成元年7月11日交通民集22巻4号825頁)。他の裁判例では、色や光沢のアンバランスさは、修理業者や車の愛好家の目から識別可能という程度に過ぎないとして、原状回復の範囲に入るために否定したもの(神戸地裁平成2年1月26日交通民集23巻1号56頁)、分部塗装の場合、太陽光や蛍光灯の下では、塗装しない分部とつやや、くすみの差が生じるが、具体的な事案の塗装範囲からすれば、この程度の差異は、車両の外観に重大な影響を与えるものではなく、光沢の差は被害車両に色褪せが出ていることから生じていること、全塗装をする場合の費用が部分塗装をする場合と比較して高額になっていることなどを指摘して全塗装の相当性を否定したもの(東京地方裁判所平成7年2月14日交通民集28巻1号188頁)がみられます。
その他、特殊な塗装が争点となったものとして、フレーク塗装に関するものがあり、フレーク塗装やフレーク塗装にキャンディ塗装が併用された塗装については全塗装の必要性が否定された裁判例があります。
他方で、全塗装が認められた例としては、塗装が必要となった理由がバッテリー液が飛散し、その飛散の範囲が不明確であり、バッテリー液による塗装と下地の腐食を防ぐ必要性があったという事案がありました。他には、損傷の程度が大きく、ボンネットの半分が剥がれているという理由によるものもあります。
また、塗装に関連するものとしては、金メッキのような実用性を欠くが嗜好性が高い事案やデコレーショントラックの損傷事案のように、自動車の標準的な機能を越えた趣味嗜好が強いものについては、全体の金額から部分的な認定を受けたり通常の塗装の範囲での補修金額に限定されるなどの解決がなされたりします。
この塗装については多くの事案で部分塗装にとどまりますので全塗装を相当とする特段の事情を立証する必要があります。

後遺障害②

交通事故に遭い怪我を負った方の中には、怪我が完治せず後遺障害として残存してしまう方もいます。その場合には、後遺障害逸失利益が相手に請求できることになります。
後遺障害逸失利益とは、被害者に後遺症(後遺障害)が残り労働能力の全部または一部を喪失したために将来発生すると認められる収入の喪失・減少を内容とする財産上の損害のことをいいます。休業損害の算定が、治癒又は症状固定までの間に現実化した収入の減少を問題とするのに対し、逸失利益は死亡または後遺症による、症状固定後の将来の収入の喪失・減少を対象とするところに違いがあります。
後遺障害を理由とした逸失利益の算定は、残存した後遺障害の内容、程度を前提としつつ、その将来の収入への影響の有無・程度を予測するという難しい作業を行うことから、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間といった様々なレベルの問題で争点が生じ争いも深くなりやすいといえます。
後遺障害に関する問題は多岐にわたることから、今回は、後遺障害逸失利益を請求する上での基本的な算定方法について説明いたします。
青い本によれば、「基礎収入額×労働能力喪失期間×喪失期間に対応するライプニッツ係数の算定方式で算定する。」とされています。そして、問題となる被害者の年齢で計算方法を大きく2つに分けています。
①有職者又は就労可能者
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
②18歳未満(症状固定時)の未就労者
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×(症状固定時から67歳までのライプニッツ係数-症状固定時から18歳に達するまでのライプニッツ係数)
この計算式で注意が必要なのは、20歳で労働能力喪失率100%の後遺障害を負った場合に、単純に1年間の収入100%を基準に、67歳までの47年間を乗じて逸失利益を算定するのではなく、47年に対応するライプニッツ係数を乗じるにとどまる点です。
これは、将来貰える賠償金を前倒しで、一括で受け取るために将来までの運用利益を将来利息という形で控除することを指しています。
簡単に表現すれば、今1億円全額使えるという利益と、50年間で1年ずつ均等に総額1億円を貰えるという利益は、経済的には同じではないため将来受け取れるはずの金銭を現在一括でもらえるという場合には、運用利益を将来利息という形で控除するのです。 また、②の計算式に関しては、症状固定時点で18歳未満の被害者は、そもそも症状固定時から働き始めるまでの期間は、収入を得られない期間であるため就労可能年数の算定の上でも、就労開始までの期間を控除するという処理がなされるのも注意が必要です。 後遺障害逸失利益は金額も大きくなりますし、賠償金の算定も非常に難しいです。そのため被害者の特性に応じて算定方法を工夫する必要があるため、年間数百件の交通事故被害者の賠償交渉を取扱う当事務所に是非お任せください。

後遺障害①

後遺障害に関する問題は多岐にわたります。まずは、後遺障害等級そのものの認定について今回は説明させていただきます。
交通事故被害者は、適正な治療を行い、症状が一進一退の状態になった時(症状固定)に残存する症状を、後遺障害として認定してもらうために自賠責への後遺障害申請を行います。
このためには、主治医に後遺障害診断書を作成してもらうことになりますが、これまで治療費を相手保険会社が払っていてくれていても、この後遺障害診断書の作成費用については原則として一旦被害者自身が医療機関に支払う必要があります。後遺障害の認定が得られた場合には、後遺障害診断書作成費用も、事故と相当因果関係のある損害として相手保険会社が支払ってくれますが、結果として非該当となった場合には自己負担となってしまいます。
また、通常は、症状固定時まで相手保険会社が治療費を支払っていますので、症状固定時までの自賠責様式の診断書・診療報酬明細書といった後遺障害申請に必要な資料は、相手保険会社より一式交付を受けられます。
注意が必要なのは、相手保険会社が自賠責一括対応を早期に打ち切った場合や保険会社に一括対応されておらず、被害者自身で治療費を払っているようなケースです。
自賠責へ後遺障害の申請を行う場合には、症状固定時までの自賠責様式の診断書・診療報酬明細書を要求されますので、適切な時期に後遺障害診断書を作成しておらず、長期間通院を続けたあとで後遺障害診断書を作成した場合には、自賠責から求められる診断書・明細書の範囲が広くなってしまいます。医療機関への作成依頼方法にもよりますが、基本的には診断書と明細書の作成で1カ月あたり8000円ほどの文書料を請求されますので症状固定時期を適正な時期に限定することは重要です。
また、自賠責での治療は自由診療のため、治療単価が非常に高いです。そのため、自賠責での治療期間が長期化すると、症状固定時期を巡り争いとなり、最終的な治療期間より早期に症状固定時期が判断されてしまうと、症状固定以後の治療費が相当因果関係を欠く治療費として自己負担となってしまいます。そのため一般的な治療期間(又は標準的な治療期間)を経過したあとは、健康保険を利用するなどの工夫が必要となります。 自賠責で認定された後遺障害等級は非常に実務において尊重されています。自賠責は損害保険料率算出機構に後遺障害の認定を委ねており、同機構ではこれまでの多数の認定実績から相当な情報とノウハウを蓄積しており、事故の後遺障害認定に関しては保険会社、裁判所を含めてその判断を非常に尊重します。
そのため、自賠責における等級認定が得られるにはどのようにしたらよいかとのノウハウについても法律事務所ごとに大きな差異がある状態だといえます。
後遺障害の申請には、保険会社が事前に自賠責に後遺障害該当性を審査してもらう事前認定という方式と、交通事故被害者において申請を行う被害者請求(自賠法16条請求)とがありますが、当事務所では基本的に被害者請求を行います。その理由は、基本的に被害者請求の方が、症状に合わせた資料を提出できるため被害者に有利であるからです。他方で事前認定は、最低限の資料しか自賠責に送られませんし、場合によっては、保険会社担当者が後遺障害該当を否定する旨の意見書を添付するケースなどもあります。
法律事務所によっては、事前認定も被害者請求もどちらも変わらないですよといった説明をされるところもありますが、医学的な所見で等級認定が確実であるような場合以外は被害者請求の方が優れていることは明らかであるので、そのような説明を行う法律事務所は交通事故に習熟した事務所ではないといえます。
当事務所は、年間300件以上の交通事故案件を扱っており、後遺障害の申請をほぼ被害者請求で実施しています。後遺障害の申請に関しては相当なノウハウを有しておりますので、ぜひご相談ください。

時価賠償 〜車両損害②〜

事故によって、車に損傷が生じると修理費が請求できます。しかし、修理費の金額が、「時価額(消費税含)+買替諸費用」を越えてしますと「経済的全損」とされ、「時価賠償(消費税含む)+買替諸費用」が賠償の上限となります。
それでは、この「時価」とはどのように判断するのでしょうか。
最高裁判所では、時価を、原則として同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等自動車を中古車市場において取得するに要する価格によって決定すべきとされています。
しかし、それ以上にどのような資料でこの、中古車市場において取得するに要する価格を決めていくかの説明はされていませんので、様々な種類の資料を、具体的な事故車の性質に応じて使い分けていくことになります。
そこで、時価算定に用いる代表的な資料を説明いたします。
まず、オートガイド自動車価格月報(通称「レッドブック」)があります。レッドブックには、下取(買取業者に買取をお願いした場合の価格)、卸売(自動車業者が他の業者に販売する場合の卸価格)、中古小売価格(機能、外装、内装がその年式に見合うように整備された状態で、保証付きで販売される車両本体のみの価格(消費税が含まれない))価格が表示されています。通常、時価賠償としてはこの「中古小売価格」を基準とすることが多いです。
他には、インターネットの代表的な中古車販売検索サイトを用いて、同種、同型種、同程度の種の平均価格を算出する方法があります。通常はレッドブックとインターネットの検索による平均を比較して高額な方を採用すれば市場における平均価格とそう乖離するケースは少ないと思います。
この車両の検索をする際に必要となる「車両のグレード」については、車両の所有者に聞いてもわからないことがあります。グレードは車台番号がわかると検索が可能です。車検証等から車台番号を調べ、その自動車のメーカーがグレード検索システムを提供しているケースがありますので、車台番号を入力するとグレードが判明することがあります。
特殊な改装や希少車両などについては、レッドブックや一般的な中古車販売サイトには記載がないことから、購入時資料、改装資料、業界の特殊な販売実績などを資料に個別に認定していく必要があります。他には、古い年式や、状態の悪い車両の場合には、税法上の減価償却の考え方に準拠する方が残存価値が多いといったケースもあります。
これらの時価交渉を行えば、時価交渉を行わなかった場合と比較して数十万円の賠償額の違いが生じることがありますので、物損についても弁護士に相談されることをお勧めいたします。

車両損害①

車で交通事故に遭いますと、当然車の修理が必要となります。車の修理内容を巡っては様々な問題が生じますが、修理費用に関する問題を少し取り上げたいと思います。
1 未修理の場合の修理費請求
まず、修理をしなくても修理費用相当額の請求ができるかについてですが、これについては数多くの裁判例が、修理をしなくとも修理費用相当額の賠償請求を認めています。
問題は、修理をしない場合の修理額の算定をどのようにするかです。
損傷の程度が比較的軽微で、外部から見た判断によって必要な修理箇所や内容が特定できる場合には、一般的な協定作業を通じて概算修理費による修理額が賠償の対象となります。
しかし、問題は、車体の損傷がある程度深く、実際の修理を行わなければ正確な修理費が算定できない場合です。これは、外板パネルの中の損傷状態は、実際に修理のためにパネルを外して確認しなければならず、修理しないにも関わらず、自動車のパーツを外して修理の査定をするのであれば、誰がその査定費用を負担するかという問題点が出てきてしまいます。
そのため多くの事案では、本来修理をすればもっと高額の修理費が請求出来たけれども、概算見積の限度でしか修理費相当額の賠償を受けられないケースが生じることになります。
2 未修理の場合の消費税相当額
最近は少なくなりましたが「修理しないのであれば、消費税は抜いた修理費の賠償となります」と話す損保担当者が昔はわりといました。そのたびに、消費税も修理費の一部に含まれますよと裁判例などを紹介しながら交渉をよく行ったものです。
3 経済的全損と買替差額
赤い本では「修理費が車両時価額(消費税相当額を含む)に買替諸費用を加えた金額を上回る場合には、経済的全損となり買替差額が認められ、下回る場合には修理費が認められる」と説明しています。
この「車両時価(消費税相当額を含む)+買替諸費用<修理費
の状態を経済的全損と評価するとしています。
この数式の中にあるように、経済的全損になってしまった場合の交渉方法は次の通りです。
1 車両時価が適正なのか
2 消費税が車両時価に考慮されているか
3 全損の判断で買替諸費用が考慮されているか
これでまずは経済的全損が妥当かどうかをチェックしていきます。
それでも全損になる場合には、上昇した時価を基準として買替差額の賠償を受け ます。買替差額とは、青い本は「全損の場合、通常は交換価値(時価)と被害車両を処分した金額との差額(買替差額)を賠償額とする」と説明しています。
相手保険会社が、全損時価賠償を行っている場合には、事故車両を引き上げることもあるので買替差額ではなく、時価賠償を受けることも多いです。また、過失などがあり、時価賠償を受ける場合でも、買替差額までしか払いませんと頑張る担当者は最近では減ったように思います。
引上げされる場合でも、事故現状車相当額を賠償金から控除する方法によって、自身の手に残る経済的利益を最大化する方法もあります。
こういった地道な作業を積み重ねていきますと、単に全損ですと言われた場合よりも数十万円程度手に残る金額が違ってくることがあります。
しかし、事故に遭ってすぐに弁護士に相談できる方ばかりではないため、多くの被害者の方はこのような物損の交渉方法があることを知らずに示談に応じてしまっていることも多いです。
まさに「事故にあったらすぐHOPE」(商標登録済)ですね。

休業損害③

今回は、「主婦休損」「主婦としての休業損害」と呼ばれる賠償項目について説明させていただきます。
まず、休業損害とは一般的に、受傷や治療のために休業し、現実に失ったとされる収入のことをいい、典型的には仕事を休んだため給与等が支払われなかったその損害のことを指しています。
そうしますと、専業主婦の方については働いてお給料をもらっているわけではありませんので、上記の意味での休業損害が生じていないことになります。
しかし、交通事故実務では、上記の専業主婦や、仕事をしている兼業主婦の方でもいわゆる「主婦休損」「主婦としての休業損害」を請求できるケースがあります。
この点を深堀させていただきます。
まず、「主婦休損」を請求するためには、「他人のために家事労働に従事する家事従事者であること」が必要です。配偶者と同居し、子供の養育をしている場合には、この家事従事者に該当することは明白なのですが、①子供がおらず、入籍はしていないけれども内縁として同居している②子供がおらず、配偶者が単身赴任をしている③配偶者の母親と同居していて、家事労働を分担している④女性が外で働きに出て、男性が家事労働に従事しているなど、家事従事者であることを認定させるには少し問題が出てくる事案もあります。各類型にしたがって、実際の家事労働の分担状況を相手保険会社や裁判所に証拠によって認めさせていく必要があります。
次に、主婦休損が認められると1日あたりいくらの休業損害が認められるかですが、これが家事従事者の基礎収入の問題です。基本的には、「賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均賃金」が採用され、概ね1日あたり1万円ほどの日額になることが多いです。この金額は「専業主婦」を典型的なケースとして想定しており、実際は様々な基礎収入のパターンがあります。①高齢夫婦の基礎収入②他に従たる家事従事者がいる場合の基礎収入③兼業主婦の基礎収入④男性主夫の基礎収入など、「主婦休損」1日当たりの単価を巡って争いが生じる類型は意外とあります。これらのケースは、全年齢平均の賃金を基本としてその何割かという算定をされることがあり、できるだけ基礎収入で不利益にならないように主張をしていくことが大切となります。
そして、常に大きな争点となる主婦休損の休業日数の問題があります。
家庭での家事労働の支障は、給与所得者の休業と違って外部に明確に表れるものではないため、支障や休業の程度の立証が一般的に困難です。そのため、事故による家事労働への支障について、事故の規模、事故前に従事していた家事労働の内容、医療記録上の傷害の程度・治療経過、通院方法、家族構成などから総合的・多角的に休業の程度を立証していく必要があります。このような立証方法を基本として、現実に通院した日数を基準とする方式、症状固定までの通院期間をもとに支障の割合を遁減させていく方式などがよく採用される方法だと思います。
主婦休損は、ケースによって認定額の幅に非常にバラつきがあり、事故の規模や、相手保険会社の傾向、傷害の程度、示談交渉か裁判上の認定かによって認定金額にかなりの差がでます。場合によっては、裁判を行うとかなり主婦休損が減少してしまうケースなどもあり、戦略的に示談を行うべきケースも一定程度存在します。相場を見誤らないように、交通事故案件の扱いが豊富な法律事務所に相談することをお勧めいたします。

ペットの損害~車載物の損害①~

交通事故に遭うと、車内にいた人が怪我を負うほか、車載物などにも損害が生じることになります。もし、車内にペット(犬が多いと思いますが)が乗っていた場合、不幸にもペットが死傷することがあります。今回のブログでは、ペットの死傷に対する損害について説明いたします。
まず、ペットが死んでしまった場合には、法律上残念ながらペットは「物」として扱われておりますので、まずはペットの「物」としての価値が賠償されることになります。車両が全損になった場合には、「時価」を賠償されることになりますが、ペットにおいても「時価」が賠償されることにはなります。しかし、問題はその算出方法でして、車のように減価償却ができるものではありませんし、成長したペットの中古売買市場があるわけではありませんので、市場における価値という観点でも算出が難しいです。基本的には、購入価格などを参考に平均的な余命を考慮して決定するほかないのではないでしょうか。裁判例の中には、盲導犬が死亡した事案で260万円の賠償を認めたものもありますが、これは盲導犬として活動できる期間や、育成に要した費用などを考慮して決定されたもので、生体そのものの価値ではなさそうです。
次に、ペットが死亡した場合の慰謝料の問題があります。
交通事故賠償上、車が壊れてしまった場合、親族の形見であっても基本的には慰謝料が認められません。その点からすれば、ペットとして家族の一員のように愛情を抱いていたという関係があれば一定の慰謝料を請求できる場合があります。しかし、その慰謝料認定の事例は数万円から高くて数十万円と、人が亡くなった際の慰謝料と比較するとどうしても金額的な差が出てしまいます。
最後に、事故でペットに多額の医療費が生じた場合の賠償の問題があります。
この問題は相当な難問でして、車両との比較で考えると、生体価格を越える治療費については経済的全損ということで生体価格の限度での賠償が受けられるに過ぎないとの損保会社弁護士の主張もあるかもしれません。しかし、ペットは、車両と異なり生命体であり、人間と全く同様に扱うことはできませんが、ペットが人間社会において占める役割の重要性からすれば、ペットの性質に応じて相当とされる治療費について賠償の対象とされるべきでしょう。
このペットの治療費を巡る賠償事案については、赤い本にも事例が掲載されていますので、参考になる反面、ペットの治療費の上限を、時価額を基準に制限することについて心情面で賛成できない部分もあります。なかなか損害論として納得がいく基準を定立することは難しいと思いますが、問題となったペットの種類、年齢、寿命、価格、治療が必要とされる期間、内容などを考慮して個別に決定していくほかないと思われます。