車両塗装~車両損害③~

2023年10月20日 カテゴリー:車両損害

修理に関する争点でよくご質問があるのが塗装に関するご相談です。
塗装については、全塗装に応じてもらえないかという部分が多いのでこの点の説明をいたします。
青本を確認すると、「一部塗装による色むらが生じるとして全塗装の要求がなされることがあるが、裁判例は特段の事情が認められる場合以外は消極的である」とされています。
裁判例上は、現在の補修用塗料自体が、メーカー自身が供給しており、その性能は新車時になされる焼き付け塗装によるものと基本的には異ならないとされています(東京地判平成元年7月11日交通民集22巻4号825頁)。他の裁判例では、色や光沢のアンバランスさは、修理業者や車の愛好家の目から識別可能という程度に過ぎないとして、原状回復の範囲に入るために否定したもの(神戸地裁平成2年1月26日交通民集23巻1号56頁)、分部塗装の場合、太陽光や蛍光灯の下では、塗装しない分部とつやや、くすみの差が生じるが、具体的な事案の塗装範囲からすれば、この程度の差異は、車両の外観に重大な影響を与えるものではなく、光沢の差は被害車両に色褪せが出ていることから生じていること、全塗装をする場合の費用が部分塗装をする場合と比較して高額になっていることなどを指摘して全塗装の相当性を否定したもの(東京地方裁判所平成7年2月14日交通民集28巻1号188頁)がみられます。
その他、特殊な塗装が争点となったものとして、フレーク塗装に関するものがあり、フレーク塗装やフレーク塗装にキャンディ塗装が併用された塗装については全塗装の必要性が否定された裁判例があります。
他方で、全塗装が認められた例としては、塗装が必要となった理由がバッテリー液が飛散し、その飛散の範囲が不明確であり、バッテリー液による塗装と下地の腐食を防ぐ必要性があったという事案がありました。他には、損傷の程度が大きく、ボンネットの半分が剥がれているという理由によるものもあります。
また、塗装に関連するものとしては、金メッキのような実用性を欠くが嗜好性が高い事案やデコレーショントラックの損傷事案のように、自動車の標準的な機能を越えた趣味嗜好が強いものについては、全体の金額から部分的な認定を受けたり通常の塗装の範囲での補修金額に限定されるなどの解決がなされたりします。
この塗装については多くの事案で部分塗装にとどまりますので全塗装を相当とする特段の事情を立証する必要があります。