ペットの損害~車載物の損害①~

2023年9月29日 カテゴリー:車載物の損害

交通事故に遭うと、車内にいた人が怪我を負うほか、車載物などにも損害が生じることになります。もし、車内にペット(犬が多いと思いますが)が乗っていた場合、不幸にもペットが死傷することがあります。今回のブログでは、ペットの死傷に対する損害について説明いたします。
まず、ペットが死んでしまった場合には、法律上残念ながらペットは「物」として扱われておりますので、まずはペットの「物」としての価値が賠償されることになります。車両が全損になった場合には、「時価」を賠償されることになりますが、ペットにおいても「時価」が賠償されることにはなります。しかし、問題はその算出方法でして、車のように減価償却ができるものではありませんし、成長したペットの中古売買市場があるわけではありませんので、市場における価値という観点でも算出が難しいです。基本的には、購入価格などを参考に平均的な余命を考慮して決定するほかないのではないでしょうか。裁判例の中には、盲導犬が死亡した事案で260万円の賠償を認めたものもありますが、これは盲導犬として活動できる期間や、育成に要した費用などを考慮して決定されたもので、生体そのものの価値ではなさそうです。
次に、ペットが死亡した場合の慰謝料の問題があります。
交通事故賠償上、車が壊れてしまった場合、親族の形見であっても基本的には慰謝料が認められません。その点からすれば、ペットとして家族の一員のように愛情を抱いていたという関係があれば一定の慰謝料を請求できる場合があります。しかし、その慰謝料認定の事例は数万円から高くて数十万円と、人が亡くなった際の慰謝料と比較するとどうしても金額的な差が出てしまいます。
最後に、事故でペットに多額の医療費が生じた場合の賠償の問題があります。
この問題は相当な難問でして、車両との比較で考えると、生体価格を越える治療費については経済的全損ということで生体価格の限度での賠償が受けられるに過ぎないとの損保会社弁護士の主張もあるかもしれません。しかし、ペットは、車両と異なり生命体であり、人間と全く同様に扱うことはできませんが、ペットが人間社会において占める役割の重要性からすれば、ペットの性質に応じて相当とされる治療費について賠償の対象とされるべきでしょう。
このペットの治療費を巡る賠償事案については、赤い本にも事例が掲載されていますので、参考になる反面、ペットの治療費の上限を、時価額を基準に制限することについて心情面で賛成できない部分もあります。なかなか損害論として納得がいく基準を定立することは難しいと思いますが、問題となったペットの種類、年齢、寿命、価格、治療が必要とされる期間、内容などを考慮して個別に決定していくほかないと思われます。