休業損害③

2023年10月4日 カテゴリー:休業損害

今回は、「主婦休損」「主婦としての休業損害」と呼ばれる賠償項目について説明させていただきます。
まず、休業損害とは一般的に、受傷や治療のために休業し、現実に失ったとされる収入のことをいい、典型的には仕事を休んだため給与等が支払われなかったその損害のことを指しています。
そうしますと、専業主婦の方については働いてお給料をもらっているわけではありませんので、上記の意味での休業損害が生じていないことになります。
しかし、交通事故実務では、上記の専業主婦や、仕事をしている兼業主婦の方でもいわゆる「主婦休損」「主婦としての休業損害」を請求できるケースがあります。
この点を深堀させていただきます。
まず、「主婦休損」を請求するためには、「他人のために家事労働に従事する家事従事者であること」が必要です。配偶者と同居し、子供の養育をしている場合には、この家事従事者に該当することは明白なのですが、①子供がおらず、入籍はしていないけれども内縁として同居している②子供がおらず、配偶者が単身赴任をしている③配偶者の母親と同居していて、家事労働を分担している④女性が外で働きに出て、男性が家事労働に従事しているなど、家事従事者であることを認定させるには少し問題が出てくる事案もあります。各類型にしたがって、実際の家事労働の分担状況を相手保険会社や裁判所に証拠によって認めさせていく必要があります。
次に、主婦休損が認められると1日あたりいくらの休業損害が認められるかですが、これが家事従事者の基礎収入の問題です。基本的には、「賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均賃金」が採用され、概ね1日あたり1万円ほどの日額になることが多いです。この金額は「専業主婦」を典型的なケースとして想定しており、実際は様々な基礎収入のパターンがあります。①高齢夫婦の基礎収入②他に従たる家事従事者がいる場合の基礎収入③兼業主婦の基礎収入④男性主夫の基礎収入など、「主婦休損」1日当たりの単価を巡って争いが生じる類型は意外とあります。これらのケースは、全年齢平均の賃金を基本としてその何割かという算定をされることがあり、できるだけ基礎収入で不利益にならないように主張をしていくことが大切となります。
そして、常に大きな争点となる主婦休損の休業日数の問題があります。
家庭での家事労働の支障は、給与所得者の休業と違って外部に明確に表れるものではないため、支障や休業の程度の立証が一般的に困難です。そのため、事故による家事労働への支障について、事故の規模、事故前に従事していた家事労働の内容、医療記録上の傷害の程度・治療経過、通院方法、家族構成などから総合的・多角的に休業の程度を立証していく必要があります。このような立証方法を基本として、現実に通院した日数を基準とする方式、症状固定までの通院期間をもとに支障の割合を遁減させていく方式などがよく採用される方法だと思います。
主婦休損は、ケースによって認定額の幅に非常にバラつきがあり、事故の規模や、相手保険会社の傾向、傷害の程度、示談交渉か裁判上の認定かによって認定金額にかなりの差がでます。場合によっては、裁判を行うとかなり主婦休損が減少してしまうケースなどもあり、戦略的に示談を行うべきケースも一定程度存在します。相場を見誤らないように、交通事故案件の扱いが豊富な法律事務所に相談することをお勧めいたします。