休業損害-自営業者の場合

2025年7月17日 カテゴリー:休業損害

休業損害-自営業者の場合

交通事故の被害者の中には、自営業者として休業損害を請求したいと相談する方が多くいます。自営業者の休業損害請求では、「基礎収入」と「休業期間・休業割合」が特に重要な争点となります。

この記事では、自営業者の休業損害を請求する際に知っておきたいことを中心に解説します。

休業損害の基礎的な解説は以下の記事をご覧ください。

自営業者とは?

交通事故損害額算定基準(通称青本)の中で自営業者と分類されているのは、個人で事業を営む者を指し、商工業・農林水産業・サービス業・自由業(開業医、弁護士、税理士、芸能人、ホステスなど)に従事している方が対象です。原則として、会社役員(法人代表など)はここに含まれず、別途検討が必要です。

自営業者の休業損害の請求額は①基礎収入と②休業期間・休業割合が争点となることが多いです。

基礎収入の算定方法

基礎収入で争点となるのが「休業1日あたりの単価をいくらとするか?」ということです。

基礎収入の算定方法は、確定申告書に記載された所得額を基本とします。青色申告控除がある場合には、その控除前の金額を用いるのが原則ですが、実際には、これに固定経費を加えたものを基礎収入とする計算方法が一般的です。

厳密に言えば、基礎収入の所得と、固定経費の損害は別の概念なのですが、基礎収入を把握するために固定経費を加えるという評価方法も簡便だと思いますので、比較的主流なこの方法で計算することが多いです。

基礎収入

基礎収入=所得額+固定経費

次に問題となるのは、基礎収入に加算できる「固定経費」の範囲をどう考えるかという点です。

この点を理解するには、固定経費と対になる「流動経費」の概念を知っておく必要があります。流動経費とは、売上高に応じて増減する費用を指します。たとえば、同じ費目であっても、事業の内容によっては流動経費にも固定経費にもなり得ます。

そのため、固定経費として扱えるかどうかは、業種ごとに個別の判断が必要です。一般的には、固定経費になりやすい費目の目安を参考にして検討していきます。

また、固定経費には、毎月かかる通常の経費だけでなく、税務上の特例によって認められている経費も含まれます。これらが明確に区別されないまま「固定経費」として議論されていることが、この問題をより複雑にしている要因となっています。

固定経費の例

  • 公租公課
  • 損害保険料
  • 減価償却費
  • 地代家賃
  • リース料
  • 修繕費、宣伝広告費、専従者給与(業種により)

水道光熱費、消耗品、通信費などは基本的には流動経費とされますが、常時水を使用する必要がある生物を養殖・飼育する業態であれば水道代も固定費になる可能性があります。

相手方の保険会社の担当者の中には、この問題についてしっかりと勉強しており、法的な観点から議論できる人もいます。しかし一方で、多くの担当者は、費目を見て「これは流動経費なので基礎収入には加算できません」と、形式的・画一的な対応をする傾向があります。

そのため、こちらとしては、法的根拠をもって理論的に説明しながら交渉することが重要です。

基礎収入の算定においては、弁護士が裁判基準を用いるのに対し、保険会社は自賠責や任意保険の基準で判断することが多いため、両者の間で認識のズレが生じやすくなります。

休業期間・休業割合の考え方

青本によると、そもそも休業損害とは、「けがやその治療のために仕事を休み、実際に失ったと認められる本来得られたはずの収入」のことを指します。

また、「けがが治るまで、あるいは後遺障害として症状が固定されるまでの間に、仕事ができなかった、または通常どおり働けなかったことによる収入の減少」が損害として認められます。

①現実に休業ないしは十分な就労が出来なかった事実とともに
②実際に収入減が生じていること

が必要とされます。

それぞれ①や②に関係する問題について以下深堀していきます。

自営業者特有の問題点

給与所得者の休業損害の場合には、会社に休業損害証明書を作成していただければ概ね良いのですが、自営業者の場合には、まず休業によって就労が出来なかったわけではないが通院などで本来の仕事以外の時間を使わされてしまったこと(①関係)や売り上げの減少が立証できなかったり、売り上げの減少がそのまま休業損害として認められないという問題(②関係)などが頻出します。

まず、自営業者は、自ら休業するとその間は売上が上がらず、将来の顧客獲得にも悪影響を及ぼす可能性があるため、怪我による体調不良があっても事業に従事しないわけにはいかないという現実があります。

その場合であっても休業損害が全く請求できないというわけではなく、休業の中には業務が全くできなかったという中核部分もありますが、仕事自体はできたが、仕事を行うために治療や身体を休めなくてはならなかったという意味で十分な就労が出来なかった場合でも休業損害が認められる可能性があります(①関係)。

たまに、休業損害を払ってもらうことを前提に、仕事を安易に休んでしまう事業者の方がいますが、仕事を休むことは事業継続に支障をきたすリスクがあるうえに、実際に休業した売上の減少を基準とする計算方法は、立証が難しく(キャンセルした仕事の証拠は通常ありません)、結局、仕事は休んだのに損害額の立証ができなくて休んだ分の休業損害を請求できないという結論になる場合もあります(②関係)。

そのため、受注していた仕事のキャンセルが契約書などで立証できるならば、その仕事によって失った利益の損害の請求ができますが、そのような資料が乏しい場合には、安易に休業損害を保険から払ってもらおうとして、休業したり仕事を断ってしまうことはリスクであることがわかると思います。

現実的な請求方法|休業率の段階的設定

では、自営業者は怪我をしても仕事も休めないのかというとそうではなく、請求の確実性としては少し下がりますが、「収入日額×期間1+収入日額×期間2×X%…」といった一種のフィクションによる休業損害の請求方法があります。上記計算式は難しいので簡単に示すと

休業率をかけた算定例
期間休業率(目安)
事故日~1か月80〜100%
1か月~3か月40%
3か月~6か月20%

このように治療期間を区切って、事故から近い期間は症状も強く多くの支障が事業に生じたとして、事業収入の基礎収入に高い休業率をかけて休業損害を算出し、治療にしたがって症状が改善していくにつれて休業率が漸減していくという計算方法です。

このような方法を使えば、事業を続けて収入を得ながらも、「本来であればもっと十分に働けたはずなのに、それができなかった」という点を根拠に、見えにくい損害として休業損害を請求することが可能になります。

ただし注意が必要なのは、この方法は、実際の仕事のキャンセルなどを証拠として立証する方法とは異なり、「見込み計算(フィクション)」による請求であるため、必ず認められるとは限らないという点です。

たとえば、以下のような場合には、保険会社や裁判所も慎重な対応を取る傾向があります。

  • 事業が夕方17時までで、その後に問題なく通院できている
  • 事故の規模が小さく、けがの程度も軽い

このような場合には、「事業への影響が少なかった」と判断され、見込み計算による休業損害が認められにくくなります。

結論として、治療期間中における自営業者の最適な対応は次のとおりです。

自営業者の最適な対応

  • できる限り仕事を継続する
  • 事業に支障が出たことを示す証拠(例:日報、取引記録、通院時間の記録など)を残す
  • 実際に得た利益は確保しながら、見えない損害を「見込み計算」で補足して請求する

このように、現実的かつ証拠に基づいた請求方法をとることで、休業損害が認められる可能性が高まります。

まとめ:自営業者の休業損害は早めの専門相談がカギ

自営業者の休業損害は、基礎収入や休業割合の立証が難しく、判断には専門的な知識が求められます。特に「収入はあったが十分に働けなかった」場合などは、適切な主張と証拠の準備が重要です。

交通事故による休業損害でお悩みの方は、交通事故に詳しい法律事務所に早めに相談することをおすすめします。

静岡でのご相談は、HOPE法律事務所までお気軽にお問い合わせください。