医師が後遺障害診断書を書いてくれない場合

2025年10月10日 カテゴリー:後遺障害

医師が後遺障害診断書を書いてくれない場合

交通事故で怪我を負い、症状固定の時点で後遺症が残った場合、それが後遺障害等級表のどの等級に該当するかが問題となります。

適正な後遺障害等級認定を受けるためには、医師によって過不足なく記載された後遺障害診断書の作成が不可欠です。

以下では、後遺障害診断書とは医師が後遺障害診断書を書いてくれない理由適切な後遺障害診断書を取得するために必要なこと後遺障害診断書の重要性と弁護士によるサポートなどについて説明します。

後遺障害診断書とは

後遺障害診断書とは、交通事故で怪我を負い、症状固定(治療を続けても、それ以上の症状の改善を望めない状態)時に後遺症が残ってしまった場合に、医師がその症状や内容を記載した診断書のことをいいます。

正式名称は「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」といいます。後遺障害診断書については、医師が医学的な観点から判断し、客観的に作成するものですが、全身の各部位の後遺障害の内容について、詳しく書き込むための書式が用意されています。

後遺障害診断書は、後遺障害等級認定の申請をする際には、必ず提出しなければならない書類です。

後遺障害等級認定の審査は、「損害保険料率算出機構」の自賠責損害調査事務所で行われますが、その審査の対象とされるのは、後遺障害診断書に記載されている内容に限られ、症状の記載漏れがあると、その症状は審査の対象外になってしまいます。

後遺障害等級認定は、基本的に「書面主義」のため、後遺障害診断書には症状固定時の状態が正確に記載されている必要があります。 

このように、後遺障害等級認定を受けるためには、医師作成の後遺障害診断書が最も重視されるのです。

医師が後遺障害診断書を書いてくれない理由

医師には、医師法19条2項により、原則として診断書を発行する義務があります。しかし実際には、医師が後遺障害診断書を書いてくれないケースも見られます。

その理由としては、主に以下のようなケースが挙げられます。

医師が後遺障害診断書を書いてくれない理由

  • 医療機関の受診が少ない場合
  • 医師が整形外科医や脳神経外科医でない場合
  • 転院直後の場合
  • 治療がまだ必要で、症状固定の時期ではない場合
  • 後遺症が残っていない場合
  • 交通事故との因果関係が疑わしい場合
  • 交通事故であることを初診時に申告していない場合

それぞれの理由を順に見ていきましょう。

医療機関の受診が少ない場合

初診と症状固定時のみ病院を受診し、その間は接骨院に通っていたケースや、遠方の救急病院を受診した後、接骨院に通い、症状固定時に近くの医療機関を受診したケースでは、受傷から症状固定までの経過が把握できません。

そのため、医師が責任をもって後遺障害診断書を作成するのが難しいとされています。

医師が整形外科医や脳神経外科医でない場合

開業医が整形外科医や脳神経外科医ではなく、外科や内科を主な診療科目としているケースでは、専門的な後遺障害診断書の作成が難しく、専門外の複雑な事案に関しては後遺障害診断書の作成を断ることもあるとされています。

転院直後の場合

転院直後のケースでは、転院先の医師は、自分で治療や検査を行っておらず、受傷から症状固定までの経過が把握できないため、後遺障害診断書を書いてくれない可能性が高いといえます。

治療がまだ必要で、症状固定の時期ではない場合

医師が治療の継続が必要で、まだ症状固定の時期ではないと判断している場合には、後遺障害診断書を書いてもらえない可能性が高いといえます。

なお、症状固定は医学的な概念ではなく、損害賠償における法的な概念であり、本来は医師の判断だけで決まるものではありません。しかし、治療効果や症状改善の見込みについては、医学の専門知識をもつ医師が最も適切に判断できるため、実務上は医師の判断が重視されます

なお、症状固定の時期が争いとなった場合には、最終的に裁判所が判断することになります。

後遺症が残っていない場合

医師が後遺症が残っていないと判断しているケースでは、後遺障害診断書を書いてくれない可能性が高いといえます。

交通事故との因果関係が疑わしい場合

医師が外傷の原因(たとえば、骨粗鬆症のある高齢者の圧迫骨折)と交通事故との因果関係が疑わしいと判断したケースでは、後遺障害診断書を書いてくれない可能性があります。

交通事故であることを初診時に申告していない場合

交通事故に遭ってから、1か月ほどして痛みが出てきたものの、本人が当初交通事故が原因だとは思っていなかったため、治療終了時の段階になって、「交通事故が原因だ」と思い至ったというケースでは、むち打ちなどの症状が交通事故から1か月して発症することはないとされていることから、後遺障害診断書を書いてくれない可能性が高いといえます。

適切な後遺障害診断書を取得するために必要なこと

被害者は、交通事故で怪我をした場合、将来的に後遺症が残る可能性を考慮して対応することが大切です。

専門医の診察を受けること

交通事故で怪我をした場合は、すぐに病院を受診し、適切な治療を受ける必要があります。特に重要なのは、怪我の部位に応じて専門の診療科を受診することです。

たとえば、骨折や捻挫、むち打ちなどの身体的外傷がある場合は整形外科を、脳や脊髄など神経系に損傷がある場合は脳神経外科を受診するのが望ましいといえます。

これは、専門外の医師では後遺障害診断書の作成を断られることがあるため、そのような事態を避けるためでもあります。

定期的に通院し、継続的に適切な治療を受けること

被害者は、事故直後の初診から症状固定まで、定期的に通院し、継続して適切な治療を受ける必要があります。

また、受診のたびに自覚症状を医師に伝え、それが症状固定まで一貫して続いていたことが分かるように、カルテや後遺障害診断書にきちんと記載してもらうことが大切です。

必要な検査を受けること

被害者は、自覚症状や医師の診断内容に応じて、適切な検査を受ける必要があります。特に以下のような検査が重要とされています。

必要とされる主な検査の種類

  • 画像検査:X線検査、CT検査、MRI検査
  • 理学的検査:身体検査・整形外科的検査
  • 神経学的検査:Jacksonテスト・Lasegue

これらの検査結果をもとに、医師は画像所見理学的所見神経学的所見を後遺障害診断書に記載します。これら3つの所見は、まとめて「他覚的所見」と呼ばれ、後遺障害等級認定において重要な判断材料となります。

後遺障害診断書の重要性と弁護士によるサポート

後遺障害診断書には、以下の内容が正確かつ具体的に記載されている必要があります。

後遺障害診断書に記載すべき主な内容

  • 受傷日時:事故によるけがを負った日時
  • 症状固定日:症状がそれ以上改善しないと判断された日
  • 傷病名:診断されたけがや病気の名称
  • 既存障害:交通事故以前に精神的・身体的な障害があったかどうかに加え、現在の症状と事故との関係を、画像所見などに基づき具体的に記載
  • 自覚症状:被害者が訴える症状が網羅され、かつ症状のある部位が具体的かつ詳細に記載されていること
  • 他覚的所見:画像所見、理学的所見、神経学的所見など、医師が客観的に把握した内容が具体的かつ詳細に記載されていること
  • 検査結果:X線、CT、MRIなどの画像により外傷の有無が確認できること。また、画像の種類ごとに撮影日が明記されており、必要な検査データがすべて記載されていること
  • 障害の見通し:障害の今後の悪化(増悪)や回復(緩解)の可能性についての見通し

これらの情報が正確に記載されていなければ、後遺障害等級認定において適切な評価を受けられないおそれがあります

後遺障害等級認定は、上述したように、「書面主義」が基本となるため、症状固定時の状態が記載された後遺障害診断書が最も重視されます。

後遺障害診断書を作成するのは医師ですが、医師は診察や治療を行う専門家であって、後遺障害等級認定の専門家ではないため、必ずしも後遺障害等級認定の申請に適した内容を記載してもらえるとは限りません。

そこで、重要になるのが、弁護士によるサポートです。

弁護士は、適正な後遺障害等級認定を受けるために、さまざまな支援を行います。

被害者やその家族への聞き取りを通じて後遺症の状態を把握し、必要な資料を収集・精査したうえで、等級認定の可能性診断書に求められる記載内容を検討します。

また、医師に対して真摯に対応し、信頼関係を築いた上で、必要に応じて記載漏れの補完修正の依頼を行うこともあります。

弁護士が行う主なサポート内容

  • 被害者や家族から、後遺症の状況について詳細な聞き取りを実施
  • 後遺障害等級取得に必要な資料を収集・整理・精査
  • 以下の観点から等級認定の可能性を判断
    -どのような等級が見込めるか
    -症状に見合った等級を得るには、診断書にどのような記載が必要か
  • 被害者の訴える症状が漏れなく記載されているかを確認
  • 必要な検査データが適切に含まれているかを確認
  • 医師との信頼関係を構築し、医療照会などを通じて記載内容の補完・修正を依頼
  • 診断書が等級認定に必要な情報を網羅しているか、法的な観点からチェック

このように、弁護士は診断書の作成過程にも関与し、後遺障害等級認定に向けた適切なサポートを行います。

まとめ

後遺障害等級認定においては、審査が「書面審査」で行われるため、医師が作成する後遺障害診断書が最も重視されます。

したがって、症状を過不足なく網羅した後遺障害診断書の作成が重要なポイントとなります。

しかし実際には、医師が後遺障害診断書を作成してくれないケースも少なくありません。

そのため、被害者は交通事故で怪我を負った場合、将来的に後遺症が残る可能性を見据えて、あらかじめ適切な対応をとっておくことが大切です。

交通事故によって怪我を負い、後遺症が残ったものの、後遺障害診断書の取得にお困りの方は、ぜひHOPE法律事務所へご相談ください。