示談後に交通事故の後遺症が発覚した場合
2025年9月16日 カテゴリー:後遺障害

交通事故の被害に遭った場合、被害者が「怪我で済んだのか」「後遺症が残ったのか」「死亡したのか」といった状況によって、損害賠償額は大きく変わります。
交通事故の多くは示談によって解決されるといわれていますが、示談の後に後遺症が発覚すると、示談の効力をめぐってトラブルになることがあります。
以下では、示談とは、示談で決める内容、示談後に後遺症が発覚した場合はどうなるのか、被害者側にとって示談をしても差し支えない時期、弁護士が示談交渉に介入することが望ましいケースや、弁護士に示談交渉を依頼する適切な時期などについて説明します。
示談とは
示談とは、事故の当事者同士が話し合い、損害の各項目ごとに金額を確定し、その合計額について、加害者が被害者に一定の金額を支払うことで合意し、紛争を解決する方法のことです。
示談の当事者は、被害者(あるいはその遺族。以下「被害者側」といいます)と加害者になりますが、実際の示談交渉の相手方は、一般的に、任意保険会社の担当者か、加害者の代理人弁護士になり、もし加害者が保険に加入していなければ加害者本人になります。
被害者側が弁護士に依頼している場合、実際の示談交渉は被害者側の代理人弁護士が行います。
示談で決める内容
示談では、以下のような項目について取り決めを行います。
- 損害の種類:どのような損害(損害の種別)について賠償するか
- 損害賠償額:それぞれの損害について、いくら支払うか
- 責任(過失)割合:事故の責任割合に応じて、双方がどの程度の負担をするか
- 支払条件:いつ、どのような方法で支払うか(例:一括払い、分割払いなど)
損害の種別は、人身損害か物的損害かに分かれます。人身損害の場合は、傷害(後遺障害の有無を含む)または死亡のいずれかになります。
損害賠償額は、人身損害であれば、損害の種類ごとに分類して積算するのが一般的です。示談交渉の段階では、それぞれの項目について内訳を明示し、妥当かどうかを検討していきます。そして、双方が合意に至れば、最終的に示談書には合計金額のみを記載すれば足ります。
- 積極損害:治療関係費、付添看護費、交通費、入院雑費、葬儀関係費など
- 消極損害:休業損害、逸失利益
- 慰謝料:入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料
過失割合は、損害賠償額をどのように分担するかを決める際の基準となります。つまり、事故当事者それぞれの責任の程度に応じて、負担額が決まります。
支払条件には、一括払いにするか、分割払いにするかといった支払い方法が含まれます。
また、示談では紛争を最終的に解決することを目的として、通常、示談で定めた内容以外の損害賠償請求権は放棄するという旨を示談書に明記するのが一般的です。
示談後に後遺症が発覚した場合はどうなるのか
示談後に後遺症が発覚した場合はどうなるのかについては、以下の最高裁判決が解決の手がかりとなります。
最高裁昭和43年3月15日判決は、示談後に重傷であることが判明し、再手術を余儀なくされ、後遺症が残った事案について、
「一般に、不法行為による損害賠償の示談において、被害者が一定額の支払いを受けることで満足し、その余の賠償請求権を放棄したときは、被害者は、示談当時にそれ以上の損害が存在したとしても、あるいは、それ以上の損害が事後に生じたとしても、示談額を上回る損害については、事後に請求できないという趣旨と解するのが相当である。(中略)全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては、示談により被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時に予想していた損害に限られると解すべきであり、その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない」
などとしました。
この最高裁判決は、請求権放棄条項の文言を踏まえるとともに、示談の周辺事情も考慮したうえで、当事者の合理的意思解釈という視点から示談内容の確定をしたといえます。
予測できなかった後遺症による損害は、示談で解決することが予定されていたものとは別のものとみなされるため、請求権放棄条項の適用対象には含まれないと解されます。
もっとも、示談は、被害者と加害者の間で一定の金額を支払うことで紛争を解決するための手続きであるため、示談後に損害が拡大したとしても、原則として改めて損害を請求することはできません。
ただし、後日請求が認められるのは、示談当時には予想できなかった重大な損害が発生し、その結果、示談額と実際の損害額との間に明らかな不均衡が生じた場合に限られると解されています。
そのため、示談において将来の後遺症の取り扱いを定める場合には、後日のトラブルをできるだけ避けるための工夫が必要です。たとえば、
「本示談は、被害者に後遺症がないことを前提とし、後日後遺症が生じた場合には、その損害賠償について別途協議するものとする」
といった文言を示談書に盛り込むことで、将来の後遺症に関する対応をあらかじめ明確にしておくのが望ましいといえます。
被害者側にとって示談をしても差し支えない時期
以下で、被害者側にとって示談をしても差し支えない時期について見てみましょう。
事故時に近い段階
事故時に近い段階では、人身事故か物損事故かによって対応が異なります。さらに、人身事故であれば、怪我だけで済んだのか、後遺症が残るのか、あるいは死亡したのかによっても判断が分かれます。
物損事故の場合には、修理費、代車料、休車損害などの物的損害が確定できるのであれば、事故時に近い段階は、被害者にとって示談を行っても差し支えない時期といえます。
人身事故のうち死亡事故については、被害者が一定期間治療を受けた後に亡くなった場合には、怪我にとどまったケースや後遺症が残ったケースと同様に扱われます。
人身事故の場合、怪我にとどまったケースでも、一般的にある程度の治療期間が必要です。さらに、後遺症が残る場合には、症状固定(治療を続けてもそれ以上の改善が見込めない状態)に至るまで、より長い時間がかかります。
そのため、怪我の治療が続いている段階では、事故時に近い段階で示談をするのは、被害者にとって適切な時期とはいえません。
怪我が後遺症を残さずに治癒した段階
被害者の怪我が後遺症を残さずに治癒した場合には、損害賠償額の算定が可能になります。具体的には、積極損害、休業損害、入通院慰謝料などが対象となります。
したがって、この段階は、被害者にとって示談をしても問題のない時期といえるでしょう。
症状が固定して後遺症が残った段階
被害者の怪我が症状固定となり後遺症が残っていても、まだ後遺障害等級の認定を受けていない段階では、後遺障害の内容や程度(等級)を確定することができません。
この段階でも、積極損害、休業損害、入通院慰謝料などの算定は可能ですが、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料の算定はできません。
そのため、全体としての損害賠償額はまだ確定できず、この時点で示談を行うのは、被害者にとって適切な時期とはいえません。
症状が固定して後遺症が残り後遺障害等級認定を受けた段階
被害者の怪我が症状固定となり、後遺症が残ったうえで後遺障害等級の認定を受けた場合には、すべての損害項目について賠償額を算定することが可能になります。
そのため、この段階は、被害者にとって示談を行っても差し支えない時期といえるでしょう。
以上のことから、示談を行っても差し支えない時期は、事故の内容や被害の程度によって次のように異なります。
- 物損事故の場合:事故時に近い段階
- 死亡事故の場合:事故直後(遅くとも四十九日の法要後)
- 怪我の場合:後遺症が残らずに治癒した段階
- 後遺症が残った場合:症状が固定し、後遺障害等級の認定を受けた段階
これらの時期が、それぞれ被害者にとって示談を行うのに適切なタイミングといえるでしょう。
弁護士が示談交渉に介入することが望ましいケース
弁護士が示談交渉に介入することが望ましいケースとしては、以下のような場合が挙げられます。
- 被害者が重傷や死亡のため、実況見分に立ち会えない場合
- 事故当事者双方の過失割合に争いがある場合
- 損害賠償額の算定基準の違いから、賠償額の総額に差が出る場合
- 怪我が治癒したのか、症状が固定したのか、後遺症が残っているのかについて争いがある場合
- 症状固定時に後遺症が残り、後遺障害等級認定を受ける必要がある場合
弁護士に示談交渉を依頼する適切な時期
上述した諸点をふまえ、特に、「被害者側にとって示談をしても差し支えない時期」と「弁護士が示談交渉に介入することが望ましいケース」を前提に、弁護士に示談交渉を依頼する適切な時期について見ていきましょう。
物損事故の場合
物損事故の場合には、弁護士に示談交渉を依頼する時期としては、事故時に近い段階が望ましいといえます。
しかし、弁護士費用特約がない場合は、被害者が得られる損害賠償額より弁護士費用の方が高くなり、費用倒れとなる可能性があります。
弁護士費用特約がない場合には、弁護士に示談交渉を依頼すべきかどうかの慎重な判断が求められます。
死亡事故の場合
死亡事故の場合には、弁護士に示談交渉を依頼する時期としては、事故時に近い段階(遅くても四十九日の法要が終わったころ)が望ましいといえます。
死亡事故では、加害者のみの立会いで実況見分が行われるため、過失割合の認定などで、被害者が不利になる可能性があります。
したがって、死亡事故の場合には、事故後のできるだけ早い段階で、弁護士に示談交渉を依頼するのがより望ましいといえます。
怪我が後遺症を残さずに治癒した場合
怪我が後遺症を残さずに治癒した場合には、その治癒の段階で弁護士に示談交渉を依頼するのが望ましいといえます。
ただし、長期間の入通院を余儀なくされた場合を除き、怪我の程度が軽い場合には注意が必要です。
弁護士費用特約がない場合、被害者が得られる損害賠償額よりも弁護士費用のほうが高くなり、結果として費用倒れになる可能性があります。
弁護士費用特約がない場合には、弁護士に示談交渉を依頼すべきかどうかの慎重な判断が求められます。
症状が固定して後遺症が残り後遺障害等級認定を受けた場合
後遺症が残り、症状が固定したうえで後遺障害等級の認定を受けた場合は、その時点が被害者にとって示談を行っても差し支えない時期といえます。
ただし、その段階はあくまで「示談をしても差し支えない時期」であるにすぎません。
怪我の症状が固定し、後遺症が残った場合でも、その内容や程度に見合った適切な後遺障害等級の認定を受けられなければ、被害者にとって不利な損害賠償額で示談が成立してしまうおそれがあります。
そのため、適切な後遺障害等級の認定を受けたい場合は、症状が固定し後遺症が残った段階で、後遺障害等級認定の申請手続とあわせて弁護士に示談交渉を依頼するのが望ましいといえます。
まとめ
交通事故の被害に遭った場合、多くの人は、できるだけ加害者との話し合いによって、適正な損害賠償額で示談をまとめたいと考えることでしょう。
被害の程度によっては、法律の専門家である弁護士に示談交渉を依頼することで、幅広いサポートを受けながら手続きをスムーズに進めることができます。
その結果、被害者(またはその遺族)にとって、より適切な損害賠償額を得やすくなるといえるでしょう。
交通事故の被害に遭い、弁護士に示談交渉を依頼すべきかお悩みの際は、どうぞお気軽にHOPE法律事務所までご相談ください。
