休業損害②

2023年9月6日 カテゴリー:休業損害

今回は、以前書かせていただきました自営業者の損害の続編として、休業期間・休業割合について書いていこうと思います。
そもそも休業損害とは、「受傷やその治療のために休業し、現実に喪失したと認められる得べかりし収入額とする」(青本)とされ、「傷害の治癒(あるいは後遺障害の症状固定)までに発生する就労不能ないしは通常の就労ができないことによる収入減少額を損害として把握するもの」(同)とされています。
つまり、①現実に休業ないしは十分な就労が出来なかった事実とともに、②実際に収入減が生じていることが必要とされます。
それぞれ①や②に関係する問題について以下深堀していきます。
給与所得者の休業損害の場合には、会社に休業損害証明書を作成していただければ概ね良いのですが、自営業者の場合には、まず休業によって就労が出来なかったわけではないが通院などで本来の仕事以外の時間を使わされてしまったこと(①関係)や売り上げの減少が立証できなかったり、売り上げの減少がそのまま休業損害として認められないという問題(②関係)などが頻出します。
まず、自営業者の方は、自身が休業してしまうとその間売り上げは上がらず、休業してしまうことで将来の顧客や仕事の獲得にも影響を与える為、怪我による体調不良があっても事業に従事しないわけにはいかないという現実があります。その場合であっても休業損害が全く請求できないというわけではなく、休業の中には業務が全くできなかったという中核部分もありますが、仕事自体はできたが、仕事を行うために治療や身体を休めなくてはならなかったという意味で十分な就労が出来なかった場合でも休業損害が認められる可能性があります(①関係)。 たまに、休業損害を払ってもらうことを前提に、仕事を安易に休んでしまう事業者の方がいますが、仕事を休むことは上記事業継続上のリスクがあるほか、実際に休業した売上の減少を基準とする計算方法は、立証が難しく(キャンセルした仕事の証拠は通常ありません)、結局、仕事は休んだのに損害額の立証ができなくて休んだ分の休業損害を請求できないという結論になる場合もあります(②関係)。
そのため、受注していた仕事のキャンセルが契約書などで立証できるならば、その仕事によって失った利益の損害の請求ができますが、そういった資料が乏しい場合には、安易に休業損害を保険から払ってもらおうとして、休業したり仕事を断ってしまうことはリスクであることがわかると思います。
では、自営業者は怪我をしても仕事も休めないのかというとそうではなく、請求の確実性としては少し下がりますが、「収入日額×期間1+収入日額×期間2×X%…」といった一種のフィクションによる休業損害の請求方法があります。上記計算式は難しいので簡単に示すと
事故日~1カ月 休業率 80%~100%
1カ月~3カ月 休業率 40%
3カ月~6カ月 休業率 20%
というように、治療期間を区切って、事故から近い期間は症状も強く多くの支障が事業に生じたとして、事業収入の基礎収入に高い休業率をかけて休業損害を算出し、治療にしたがって症状が改善していくにつれて休業率が漸減していくという計算方法です。
これであれば、事業に従事しながら収入をあげ、さらに本来ならもっと万全に事業に従事できたのにそれが出来なかったという意味での休業損害を上記方法で請求することで目に見えない事業上の休業損害を請求することも可能です。
注意が必要なのは、上記方法は、実際の仕事のキャンセルを立証する方法と異なり、一種のフィクション(見込計算)ですので、必ず認めらえるというものではないです。
例えば、事業は17時までに終わり、その後接骨院などで仕事に影響なく通院が出来ているとか、そもそも、事故の規模が大きくなく、怪我の程度がそこまで重たくない場合などには、相手の保険会社や裁判所も、上記の見込計算での休業損害の認定に慎重になる傾向があります。
結局、治療期間中にできる事業者のベストプラクティス(最適解)は、出来る限り仕事を継続しつつ、事業に支障が出たエビデンス(証拠)を残しながら、本来の事業で利益をあげつつ、事業への目に見えない支障を、上記の見込計算で請求するという方法だと思います。