休業損害①
2023年8月25日 カテゴリー:休業損害
当事務所にご相談される交通事故被害者様の中に比較的多いのが、自営業者の休業損害を請求されたいという方です。
まず、自営業者の範囲ですが、青本では「商・工業、農林水産業、サービス業、その他いわゆる自由業(開業医、弁護士、税理士、プロスポーツ選手、芸能人、ホステスなど報酬・料金等によって生計を営む者)などに従事する者で、個人名で事業を営んでいる者」とされています。そのため、各種会社の役員については、この自営業者の休業損害が原則として請求できません。会社役員の休業損害についてはまた別の機会に書かせていただきます。
さて、自営業者の休業損害の問題点は①基礎収入と②休業期間・休業割合が大きな争点となることが多いです。
休業1日あたりの単価をいくらとするかが、基礎収入の問題です。
この基礎収入は自営業者であれば、確定申告書記載の所得額が原則で、青色申告控除がされている場合には、その控除額を引く前の金額を基礎とする、と解説されることが多いですが、実際には、これに固定経費を加えたものを基礎収入とする計算方法を取ることが多いです。厳密に言えば、基礎収入の所得と、固定経費の損害は別の概念なのですが、基礎収入を把握するために固定経費を加えるという評価方法も簡便だと思いますので、比較的主流なこの方法で計算することが多いです。
そうしますと、次に問題となるのは基礎収入に加えることができる固定経費の範囲をどのように考えるかということになります。この問題を知るには、固定経費の対になる概念である流動経費の概念を知る必要があります。流動経費とは、売上高に比例して増減する経費のことを指すとされていますが、同じ勘定費目であっても、業態によって流動経費になったり、固定経費になったりしますので、固定経費になりやすい目安の費目を参考に、業態ごとに個別にみていく必要があります。
固定経費の種類に中にも、文字通り月々経費として事業に計上されるものから、税務上の優遇措置によって認められている経費項目もあり、それらがあまり区別されずに固定経費とされて議論されてしまっているところが、この問題を複雑にしている原因となります。
こういった知識をもとに、一般に固定経費とされるものに、公租公課、損害保険料、減価償却費、地代家賃、リース料などがあります。業態にもよるものが修繕費、宣伝広告費、専従者給与などがあります。水道光熱費、消耗品、通信費などは基本的には流動経費とされますが、流水が必要となる生物を養殖・飼育する業態であれば水道代も固定費になる可能性があります。
相手保険会社の担当者の中には、この問題をきちんと勉強していて、法的に議論できる人もいるのですが、多くは、費目をみて「これは先生流動経費なんで基礎収入に加えられません」と杓子定規に話をする人もいますので、法的な理屈をきちんと説明して交渉できるかが大切となります。また、この自営業者の基礎収入で揉める背景には、弁護士が裁判における基礎収入を想定しているのに対し、損保担当者は、自賠責ないし任意保険における基礎収入の算定方法を基本に考えているため、どうしても両者の間で認識の相違が出てしまうことも理由にあげられます。
休業期間・休業割合については次の機会にお話させていただきます。