交通事故による車の修理費用・時価賠償・塗装問題
2025年7月24日 カテゴリー:車両損害

交通事故で車に損傷を受けた場合、修理費用の請求や時価賠償、塗装に関する問題など、物損対応にはさまざまな論点があります。今回は、これらの問題を整理して解説します。
修理費用請求と未修理の場合
未修理でも修理費相当額の請求は可能
実際に修理を行わなくても、修理費用相当額の請求は認められるという裁判例が多数あります。
ただし、損傷が軽微で外観から修理内容が特定できる場合は、概算見積で算定可能ですが、
- 車体内部に深い損傷がある場合
- パーツを外さないと損傷が確認できない場合
には、査定費用を誰が負担するかという問題が生じ、概算見積による賠償にとどまることが多いのが実情です。
消費税も賠償に含まれる
過去には「修理しないなら消費税分は支払わない」という損保担当者もいましたが、「消費税も修理費の一部に含まれる」という裁判例などを紹介しながら交渉をよく行ったものです。
経済的全損と買替差額
赤い本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)では、次のように説明されています。
- 修理費が車両時価(消費税含む)+買替諸費用を上回る場合
➔ 経済的全損となり、買替差額が認められる。 - 修理費が下回る場合
➔ 修理費の賠償が認められる。
経済的全損の確認ポイント
経済的全損と判断された場合は、まず以下をチェックします。
- 車両時価が適正か
➔ 時価評価が低く見積もられていないか確認 - 消費税が車両時価に含まれているか
➔ 消費税も含めた評価かどうか - 買替諸費用が考慮されているか
➔ 登録費用など、買替にかかる諸費用が算入されているか
これらを確認してもなお経済的全損となる場合、買替差額による賠償を受けることになります。
賠償額を最大化する方法
もし事故車を引き上げられる場合でも、事故現状車の相当額を賠償金から控除する方法を検討することで、手元に残る金額(経済的利益)を最大化できることがあります。
このように、経済的全損の交渉は地道な作業の積み重ねですが、適切に進めることで、単に「全損」と言われた場合に比べ、数十万円単位で手元に残る金額が変わることもあります。
時価とはどのように判断されるか
交通事故で車が全損となった場合、賠償額の上限となる「時価」はどのように決まるのでしょうか。
最高裁は、時価を次のように定義しています。
同じ車種・年式・型式で、使用状態や走行距離が同程度の車両を、中古車市場で購入するために必要な価格
ただし、具体的にどの資料で価格を決めるかまでは示していないため、実務では複数の資料を使い分けます。
オートガイド自動車価格月報(レッドブック)
- 表示価格の種類:
- 下取価格(買取業者に売却する場合)
- 卸売価格(業者間取引価格)
- 中古小売価格(整備・保証付きで店頭販売される価格、消費税別)
- 実務では「中古小売価格」を基準とすることが多いです。
インターネット中古車検索サイト
- 同じ車種・型式・程度の平均価格を算出
- レッドブックと比較し、高額な方を基準にするケースが多く、市場平均と乖離しにくいです。
この車両の検索をする際に必要となる「車両のグレード」については、車両の所有者に聞いてもわからないことがあります。グレードは車台番号がわかると検索が可能です。車検証等から車台番号を調べ、その自動車のメーカーがグレード検索システムを提供しているケースがありますので、車台番号を入力するとグレードが判明することがあります。
特殊な改装や希少車両などについては、レッドブックや一般的な中古車販売サイトには記載がないことから
- 購入時資料
- 改装内容資料
- 業界の販売実績
などをもとに個別に認定が必要です。
他には、古い年式や、状態の悪い車両の場合には、税法上の減価償却の考え方に準拠する方が残存価値が多いといったケースもあります。
これらの時価交渉を行えば、時価交渉を行わなかった場合と比較して数十万円の賠償額の違いが生じることがありますので、物損についても弁護士に相談されることをお勧めいたします。
塗装に関する問題と全塗装の可否
交通事故で車の塗装が損傷した場合、全塗装を求めたいという相談がよくあります。
裁判例の基本的な考え方を解説した青い本(交通事故損害算定基準)によると
一部塗装による色むらがあるとしても、特別な事情がない限り全塗装は認められないとされています。
実際の裁判例でも、以下のように判断されています。
- 補修用塗料の性能は新車時の焼付塗装と基本的に変わらない(東京地裁平成元年7月11日交通民集22巻4号825頁)
- 色や光沢の差は、修理業者や車愛好家が気付く程度に過ぎず、原状回復の範囲には含まれない(神戸地裁平成2年1月26日交通民集23巻1号56頁)
- 部分塗装による光沢の差は、差異は車両の外観に重大な影響を与えるものではなく、また光沢の差はもともと被害車両に色褪せがあったことが原因であると判断されています。さらに全塗装の高額費用を負担させる相当性はない(東京地裁平成7年2月14日交通民集28巻1号188頁)
その他、特殊な塗装が問題となった事例として、フレーク塗装に関するものがあります。フレーク塗装や、これにキャンディ塗装を併用した場合であっても、全塗装の必要性は裁判で認められませんでした。
一方で、全塗装が認められたケースもあります。例えば、バッテリー液が車体に飛散し、その影響範囲が不明確であったため、塗装と下地の腐食を防ぐ必要があった事案や、損傷の程度が大きくボンネットの半分が剥がれてしまった事案などです。
また、塗装に関連する事例として、金メッキのように実用性はなくても嗜好性が高いものや、デコレーショントラックのように車の標準的な機能を超える趣味性が強いものについては、賠償金額が部分的に認定されたり、通常の塗装範囲内での補修費用に限定されることがあります。
このように、塗装に関する問題は多くのケースで部分塗装にとどまるため、全塗装を認めてもらうには、特別な事情があることを立証する必要があります。
まとめ
交通事故で車が損傷した場合、修理費用の請求や時価賠償、塗装補償など、対応にはさまざまな論点があり、個別の事情によって判断が大きく変わります。
時価の算定方法や全塗装の可否などを正しく理解し交渉しなければ、数十万円単位で賠償額に違いが生じることも珍しくありません。事故に遭ってしまったときは、交通事故に強いHOPE法律事務所へご相談ください。
