慰謝料算定における3倍ルール~入通院慰謝料①~

2023年8月4日 カテゴリー:入通院慰謝料

交通事故の損害項目に、入通院慰謝料という項目があります。
この入通院慰謝料の計算方法は、自賠責基準(1日4300円×通院日数×2≦通院期間)の他に、裁判所で用いられている裁判所基準(弁護士基準)というものがあります。
この弁護士基準の慰謝料の計算方法は、原則として入通院期間(通院の長さ)を基準に計算し、副次的に通院日数等を考慮する方法がとられています。

さて、本題である「3倍ルール」についてお話します。
「3倍ルール」とは、いわゆる赤い本の慰謝料の計算について記述した部分の、「むち打ち症で他覚所見がない場合等は入通院期間を基礎として別表Ⅱを使用する。通院が長期にわたる場合には、症状、治療内容、通院頻度ふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」の下線部のことを指しています。
簡単にいいますと、例えば軽微な事故のむち打ち症状で、総治療期間180日間通院し、実通院は月に1回の診察のみで特段リハビリや処方も受けず、180日間で実通院日数が6日であるようなケースでは、弁護士基準であっても、慰謝料の算定は180日ではなく、6日(実通院日数)×3倍=18日で計算をするというものです。
確かに、軽微なむち打ち症状なのに、1カ月に一度診察さえして180日通えば弁護士基準の180日分の慰謝料の請求(89万円)ができるというのは不相当だと思います。この「3倍ルール」は、弁護士基準が原則として通院期間をもとに画一的に慰謝料を計算する弊害を修正するための例外則として一定の合理性があると思います。

しかし、相手方保険会社は、この3倍ルールを本来予定されている範囲を超えて適用し、賠償金の減額を主張してきます。
例えば、赤信号で突然追突され、車が廃車になるほど凹んでしまったむち打ちの患者Aさんが、9:00~18:00のフルタイムでの仕事をしている場合には、整形外科の診療時間に何度も通院することはできません。何とか職場の上司にお願いして月に2,3回有休を使って早退し、整形外科に通院し、痛み止め、湿布、電気治療などをしてもらって180日の期間で通院したケースでは、実通院日数は半年で12日~18日程度となり、ここに3倍ルールを当てはめると36日~54日分の慰謝料(約20万~35万)となります。

しかしこの結論は不当です。
仮にこのケースで、Aさんの同乗者Bさんがいて、AさんとBさんは、症状の程度としては殆ど変わらなかったとします。Bさんは、夜勤の仕事がメインだったので、整形外科に週に3回程通院でき、Aさんと同じ治療をした場合、180日で約77日実通院日数があるためBさんの通院慰謝料は89万円で計算されます。
どうでしょう、AさんとBさんは、同じ事故、同じ怪我、同じ怪我の程度にもかかわらず、通院ができたかどうかという事情だけで、賠償金の算定に差が出てしまいます。
このような場合、基本的には次のように保険会社と交渉をしていきます。
裁判所での慰謝料計算の方法が、基本的には公平性・画一性の観点から通院期間を原則として計算することから、この方法にまず準拠すべきことを強調した上で、例外則である3倍ルールが妥当する、事故の態様、傷害の程度、治療の内容といった弊害事情があるのかについて、個別具体的な事故資料を基に説得していくことになります。