交通事故の慰謝料とは?―種類・算定基準・3倍ルール
2025年8月20日 カテゴリー:慰謝料

交通事故に遭ってしまった場合、治療や修理の対応に追われながら、加害者側の保険会社とのやり取りもしなければならず、大きなストレスを抱える方が少なくありません。中でも「慰謝料」に関しては、「いくらもらえるのか」「提示された金額は妥当なのか」といった不安や疑問の声が多く寄せられます。
本記事では、交通事故における慰謝料の種類や算定基準、さらには「3倍ルール」や増額が認められるケースなど、慰謝料に関する重要なポイントをわかりやすく解説します。保険会社との交渉で不利にならないために、ぜひ参考にしてください。
慰謝料の種類と基準
慰謝料の種類
交通事故における慰謝料は、被害者が受けた精神的損害に対する賠償として支払われ、主に以下の3つに分類されます。
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料):ケガの治療のために通院・入院した期間に応じて支払われるもの
- 後遺障害慰謝料:症状固定後に残った後遺症の程度に応じて支払われるもの
- 死亡慰謝料:被害者が亡くなった場合に支払われるもの
慰謝料の算定基準
慰謝料の算定には、以下の3つの基準が存在します。それぞれに特徴があり、状況によって受け取れる金額が大きく変わるため、注意が必要です。

| 基準 | 特徴 |
|---|---|
| 自賠責基準 | 最低限の補償を目的とした国の基準 |
| 任意保険基準 | 自賠責よりは高いが明確な算定根拠がない |
| 裁判(弁護士)基準 | 「赤い本」に基づく最も高額な基準 |
それぞれの算定基準の違いを入院慰謝料を参考に解説します。
自賠責基準
自賠責基準は、国が定めた強制保険に基づく最低限の補償を目的とした基準であり、交通事故の被害者に対して一定の損害賠償を行うために用いられます。入通院慰謝料の計算は、1日あたり4,300円×2×実通院日数(但し≦通院期間)で算定されますが、その上限は通院期間内に限られる点に注意が必要です。たとえば、通院回数が非常に多くても、通院期間を超えて日数をカウントすることはできません。
また、自賠責基準では、傷害に対する補償全体に120万円という限度額が設けられており、この枠には治療費や休業損害、文書料などすべての損害が含まれます。そのため、通院回数が多かったり、治療費や休業損害が高額になった場合には、慰謝料に充てられる金額が相対的に少なくなることがあります。
ただし、自賠責基準の大きな特徴として、被害者に一定の過失があったとしても慰謝料などの算定に影響せず、過失割合による減額が行われない点が挙げられます。
「自賠責基準よりも、弁護士さんが使う基準の方が高いんでしょ?」とお話いただくこともありますが、被害者に過失がある場合には自賠責基準で慰謝料を算定する方が裁判基準よりも高くなる可能性もあります。
任意保険基準
任意保険基準は、各保険会社が独自に設定している社内基準に基づいて慰謝料の金額を算定するものであり、明確な法的根拠や統一的な計算方式が存在するわけではありません。
提示される金額は、一般的に自賠責基準よりは高額であるものの、裁判(弁護士)基準よりは低額であることが多く、その中間程度に位置づけられます。しかしながら、任意保険基準はあくまでも保険会社側が提示する交渉の出発点にすぎず、被害者側としてはそれを鵜呑みにせず、交渉や見直しの余地があるものとして慎重に対応すべきです。
裁判(弁護士)基準
裁判(弁護士)基準は、交通事故に関する裁判実務で広く使用されている「赤い本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)」に基づいた基準です。一般的には、自賠責基準や任意保険基準と比べて最も高額な慰謝料が算出される傾向にありますが、この基準はあくまで目安に過ぎず、実際の慰謝料額はケガの部位や程度、通院頻度などの事情によって増減します。
また、裁判基準では、被害者側に過失がある場合にはその割合に応じて慰謝料が減額されるため、過失相殺による実際の受取額が大きく下がる可能性もあります。このように、裁判基準は高額を見込める反面、過失の影響を大きく受ける点に留意が必要です。
入通院慰謝料と「3倍ルール」
「3倍ルール」とは、いわゆる「赤い本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)」に記載されている、むち打ち症のように他覚的所見がないケースに関する慰謝料算定の特例を指します。
赤い本では、「むち打ち症で他覚所見がない場合には、入通院期間を基準に別表Ⅱを使用する。ただし、通院が長期にわたる場合には、症状や治療内容、通院頻度を考慮して、実通院日数の3倍程度を通院期間の目安とすることがある」とされています。この「実通院日数の3倍を目安とする」という部分が、通称「3倍ルール」と呼ばれているのです。
わかりやすく言えば、軽微な事故でむち打ち症と診断され、例えば180日間の治療期間中に月に1回しか通院せず、合計6回しか受診していないような場合、たとえ通院期間が180日であっても、慰謝料はその全期間ではなく、実通院日数6日×3=18日分として計算される、という扱いになります。
つまり、通院期間の長さだけを根拠に高額な慰謝料を請求するのを防ぐために設けられた、裁判基準における例外的なルールです。
※保険会社の不当な慰謝料減額事例はタップで開きます
保険会社の不当な慰謝料減額
しかし、相手方の保険会社は、本来限定的に使われるべき「3倍ルール」を過度に適用し、慰謝料の大幅な減額を主張してくることがあります。
たとえば、赤信号で突然追突され、車が廃車になるほどの損傷を受けたAさんがいたとします。Aさんは平日9時から18時までのフルタイム勤務で、整形外科の診療時間に頻繁に通院することが難しい状況でした。それでも職場の上司にお願いし、月に2〜3回有給を取得して早退し、痛み止めや湿布、電気治療などを受けながら180日間通院を続けていました。
ところが、このケースでの実際の通院日数は12〜18日程度だったため、保険会社は「3倍ルール」を機械的に適用し、12日×3=36日〜18日×3=54日と換算。慰謝料を20万円〜35万円程度にとどめるよう主張してきたのです。
しかし、このような扱いは不当といえます。仮にAさんの同乗者Bさんが、Aさんと同じ事故に遭い、同程度の症状だったとします。Bさんは夜勤勤務だったため整形外科に週3回ほど通院でき、Aさんと同じ内容の治療を受けた結果、180日間で約77日の通院実績がありました。この場合、Bさんは通院期間180日として計算され、慰謝料は約89万円となります。
つまり、AさんとBさんは事故の内容もけがの程度も同じであるにもかかわらず、「通院できたかどうか」という事情だけで慰謝料の金額に大きな差が生じてしまうのです。
このようなケースでは、保険会社の主張する3倍ルールの適用が妥当かどうかを丁寧に検討する必要があります。基本的には、裁判基準が「通院期間」をもとに慰謝料を画一的に算定する方式を採っていることを前提に、例外である3倍ルールの適用が相当かどうか、事故の態様、傷害の程度、治療内容などを踏まえて、具体的な資料に基づいて保険会社と交渉していくことが重要です。
慰謝料の増額が認められる場合
裁判基準では、ある程度類型化された精神的損害が前提ですが、以下のような「非類型的」または「通常を超える」事情がある場合には、慰謝料が増額される可能性があります。
- 悪質な事故態様:飲酒運転や赤信号無視など
- 事故後の極めて悪質な行動:ひき逃げや罪証隠滅など
- 胎児の死産
- 重度の後遺障害
- 治療が極めて過酷だった場合
- スポーツ生命の断絶など特別な事情
こんなことを書きますと、「先生、轢き逃げは慰謝料増額理由って書いてありますよ」と怒られそうですが、轢き逃げが問題となった事案は、飲酒運転などで重大事故を起こして救護義務を果たさず、その後の刑事事件などでも犯行を否認したりなど轢き逃げそのものだけを理由とした増額というものは多くは見かけません。
事故を起こした当初、驚愕により現場から立ち去ってしまい、しばらくして現場に立ち戻って事故手続きに服する場合や、後日みずからの事故を申告して自身の非を認めたような場合には、慰謝料増額に必ずしも当たるとはいえないかと思います。
慰謝料の増額理由は、個別性が高く、インターネット等の情報のみでは正しい判断はできないことから、もし苦しい状況に陥ってしまっている事故被害者様がおられましたら専門家への相談をお勧めいたします。
まとめ
交通事故の慰謝料は、「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3つに分類され、算定には「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判(弁護士)基準」という異なる基準が用いられます。一般的には、裁判基準が最も高額とされますが、過失相殺や「3倍ルール」の適用によって、実際に受け取れる金額が大きく変動することがあるため注意が必要です。
また、悪質な事故態様や重篤な後遺障害など、通常を超える事情があれば慰謝料が増額される可能性もありますが、その判断には高度な専門的知見が求められます。
適正な賠償を受けるためには、保険会社任せにせず、早期に交通事故に詳しい弁護士へ相談することが重要です。交通事故の被害に遭い、お困りの際は、ぜひHOPE法律事務所へご相談ください。
