保険会社による治療費の「打ち切り」とは?仕組みと回避のポイントを解説
2025年7月17日 カテゴリー:通院方法

交通事故に遭ってケガを負った場合、多くの方が医療機関や接骨院などで治療を受けることになります。その際、治療費は加害者側の保険で対応されることが一般的ですが、
「保険会社から治療費の支払いを打ち切られた」
「被害者の意見も聞かずに、一方的に打ち切るなんて許されるのでしょうか?」
というご質問をいただくことがあります。
結論から申し上げると、保険会社による治療費打ち切りは、一方的に行われることがあっても、制度上やむを得ないものであり、違法とされる可能性はほとんどありません。
その背景には、「自賠責の一括対応」と呼ばれる仕組みが関係しています。
この記事では、交通事故後の「治療費打ち切り」がなぜ起きるのか、その仕組みや打ち切りを避けるための通院方法、注意点をわかりやすく解説します。
治療費打ち切りとは?
交通事故の治療費は、原則として被害者が一時的に立て替えたうえで、加害者に請求する仕組みとなっています。しかし、実際には被害者の経済的負担を軽減するため、加害者側の任意保険会社が「自賠責保険」分を含めて一括して対応する制度(自賠責の一括対応)が用いられています。
この「自賠責の一括対応」はあくまで任意保険会社のサービスに過ぎず、法律上、保険会社がその対応をいつ終了しても基本的には違法ではありません。そのため、被害者の意思にかかわらず、保険会社が一方的に治療費の支払いを打ち切ることが可能となっているのです。
被害者の意見を聞くのはあくまで全体的な円満な解決を目指すという側面と、被害者の治療状況を確認して、治療期間を適切な範囲にとどめたいという保険会社の思惑とが重なって対応されているだけで、被害者の通院継続の意見があっても任意保険会社が保険対応を終了することに法的な問題はありません。
そのため治療費の打切りを回避するためには、この自賠責の一括対応はあくまで円満解決のためのサービスに過ぎないという出発点を押さえなくてはなりません。
なぜ保険会社は打ち切るのか?
保険会社が治療費の支払いを打ち切る背景を、①保険制度②治療経過③その他に分けて解説します。
①保険制度による打ち切り
自賠責保険には支払限度額がある
交通事故による傷害(ケガ)の場合、自賠責保険で補償される上限は120万円までと定められています。この中に含まれるのは以下のような項目です。
- 治療費(診療報酬)
- 交通費(通院交通費やタクシー代)
- 慰謝料(通院日数に応じて算出)
- 文書料(診断書など)
- 休業損害(仕事を休んだことによる収入減)など
これらすべてが120万円以内に収まるよう、保険会社は費用全体を管理・調整しています。
特に打ち切り要因となりやすい(金額が大きくなりやすい)のが「過剰通院、濃厚通院」「多部位の治療」「長期タクシー利用、長期の休業損害の請求」などになります。
なぜ早期打ち切りにつながるのか
加害者側の任意保険会社は、被害者の治療費について「自賠責部分」も含めて一括して支払う(自賠責の一括対応)ことが多くあります。このとき、保険会社はまず自賠責保険の120万円を充当し、それを超えた分については自社(任意保険)で負担することになります。
つまり、支払い総額が120万円に近づくと、保険会社が自分たちの財布から払う必要が出てくるため、「それ以上の支払いを避けたい」という動機から、治療費の早期打ち切りに動くことになるのです。
たとえば、通院頻度が高く治療費がかさんでいたり、タクシー通院が多く交通費が高額になっていたりすると、それだけ早く120万円の枠に到達してしまいます。加えて、休業損害の請求が長期に及べば、残りの枠はさらに圧迫されます。
保険会社の損益計算と打ち切り判断
保険会社は、内部の損害査定システムを用いて、被害者に支払う総額を日々積算しています。そこでは、治療費・交通費・休業損害・慰謝料などを加味して、総額が120万円にどの程度近づいているかをリアルタイムで把握しています。
このような事情から、被害者に明確な治療効果が見られない、あるいは通院実績に疑問がある場合には、自賠責枠内で収めるために打ち切りを検討する圧力が非常に高くなるのです。
とくに、むちうちや軽度の捻挫など「他覚所見に乏しい症状」の場合、保険会社は「医学的な必要性がない」と判断しやすく、枠を超える支払いを避けようとする傾向が強まります。
他覚所見に乏しい症状:患者が感じる自覚症状はあるものの、医師が客観的に確認できる症状(他覚所見)が少ない、または見られない状態
②治療経過による打ち切り
保険会社は、通院の頻度や治療の経過も重視しており、治療内容に医学的な合理性がないと判断された場合には、早期の打ち切りにつながることがあります。ここでは、特に打ち切りの判断に影響しやすいポイントをご紹介します。
過剰通院・濃厚通院
通院頻度が過度に高く、毎日通っていたり、機能回復訓練やリハビリ、ブロック注射などの処置を頻繁に受けている場合には、医学的な必要性に乏しい「過剰な治療」と評価されることがあります。
とくに、保存的治療(手術を伴わない治療)であれば、回数を重ねることで効果が比例的に高まるわけではないため、保険会社からは「通院頻度に対して治療効果が薄い=打ち切り対象」とみなされるリスクが高まります。
過少通院(通院回数が少なすぎる)
捻挫や打撲など、比較的軽度な外傷でありながら月に1〜2回しか通院していないような場合、「通院の必要性が低い=症状が軽い」と判断され、保険会社から「今月末で保険対応は終了します」と打ち切りを通告されることがあります。
骨折などで安静が必要なケースとは異なり、打撲捻挫系の治療で通院が少ないと、保険会社に「治療の必要性が乏しい」とみなされやすくなります。
症状の変化がない・症状固定と判断される
治療中の症状に改善傾向が見られない場合、保険会社は「これ以上の治療効果が見込めない=症状固定」と判断し、打ち切りを検討します。
たとえば、事故から数ヶ月が経過しているにもかかわらず、「痛みは10のまま」「むしろ悪化して15になった」といった申告をしてしまうと、これは外傷の治療経過としておかしいため、保険打切りの対象となります。
乱暴な言い方ですが、骨がめちゃくちゃに折れても、数カ月すれば自発痛自体は大幅に改善するはずです。しかし、数カ月経っても7割8割程度にしか改善していないとか、受傷時と痛みが変わらないとか、場合によって受傷時より悪化しているとの答えは、その怪我にとって治療が功を奏していないことを示しています。
これはその怪我がこれ以上医学的に改善しないことを示していたり、今の症状が外傷以外の別の要因での疼痛であることを示すと考えられてしまいます。
実際、主治医にとっては、交通事故による怪我以外の何らかの理由による症状申告があるのではないかと考えられてしまい、面倒ごとに関わりたくないとして保険会社に「症状固定相当」と医療照会に回答してしまう動機となります。
多部位の治療
事故によって複数の部位にケガを負った場合でも、それぞれの症状に応じた治療の進め方が求められます。すでに改善している部位についてまで漫然と通院を続けていると、「不要な治療」と評価され、打ち切りの要因となります。
また、保険会社としては、部位が多いからといってその分だけ保険枠が増えるわけではなく、支払総額に制限がある中で「支出が膨らみすぎている」と判断されやすくなります。
③その他の理由での打ち切り
長期タクシー利用
通院手段としてタクシーを頻繁に利用していると、それだけで交通費が高額となり、自賠責保険の120万円の枠を圧迫します。タクシー代は患者の手元に残るお金ではないものの、「交通費」として治療費と同じく補償対象となるため、保険会社は慎重にその妥当性を見極めます。
長期の休業損害請求
休業損害も、保険会社が慎重にチェックする費目のひとつです。確かに事故直後に数日間の休業が必要となるケースは多くありますが、症状が軽度であるにもかかわらず長期間にわたる全休を続けていると、「労働の制限に見合った症状ではない」と判断され、打ち切りの要因となります。
事故態様が一般的に小規模損害といわれるもの
事故の内容が比較的軽微(修理金額が30万円以下、駐車場内での事故、重量差のある衝突、低速度での衝突など)であると判断される場合、それに見合わない長期通院や高額な補償請求は、保険会社から疑問視されやすく、早期の打ち切りにつながる大きな要因となります。
治療内容や医師の判断で打ち切りもある
治療内容や通院頻度だけでなく、保険会社は事故の状況や初期対応、医療機関での診療経過なども確認し、受傷の合理性や治療の必要性があるかどうかを総合的に判断しています。
初期の聞き取りで受傷の整合性をチェック
交通事故の後、保険会社の担当者は、比較的早い段階で被害者に連絡を取り、受傷状況や通院先、事故の態様について詳しく聞き取りを行います。
ここでは、被害者の説明が加害者側(契約者)の事故状況と矛盾していないかどうかが重要視されます。
たとえば、追突事故であれば「頚椎捻挫」や「腰椎捻挫」といった傷病名はよく見られ、不自然ではありませんが、「肘関節打撲」や「下腿部打撲」といった部位にケガがあると、「追突でどうやってそこを負傷したのか?」という合理性が問われ、受傷そのものへの疑義が生じることがあります。
また、症状の強く出ている部位について「肩がまったく上がらない」「以前から腰が痛かったが、さらに悪化した」などと申告すると、「事故以前からの持病ではないか?」という疑いを持たれることもあります。
医療機関での診療内容が軽症を印象づけることも
診療を受けた医療機関での対応内容も、保険会社は詳細にチェックしています。以下のようなケースは、「医師の見立てが軽症」と判断されやすく、打ち切りの根拠になり得ます。
- レントゲンなどの画像検査が行われていない
- 鎮痛薬の処方がなされていない、または途中で中止されている
- 消炎鎮痛処置が施されていない
- 医師の所見が簡素で、精密検査や治療方針が立てられていない
このような対応が続くと、保険会社は「医師自身が軽症と判断しているのでは?」と受け取り、保険対応の終了を検討する材料になります。
治療内容が漫然としている、改善が見られない場合も注意
治療の内容に変化がなく、漫然と同じ施術や処置を続けているだけで、症状の改善が見られない場合も、保険会社から「慢性化しており、これ以上の治療は不要」と判断される可能性があります。
また、通院間隔が空きすぎていたり、整形外科の診察が1か月以上空いている場合にも、「医学的な管理がなされていない」と評価され、治療費打ち切りを招く原因になります。
まとめ:治療費打ち切りを避けるためにできること
保険会社の治療費打ち切りの背景と打ち切り理由になることを中心に解説しました。打ち切りを避けるためには、打ち切り要因となる点に注意して行動することが大切です。
- 自賠責保険には支払限度額がある
- 過剰通院・濃厚通院
- 過少通院(通院回数が少なすぎる)
- 症状の変化がない・症状固定と判断される
- 多部位の治療
- 長期タクシー利用
- 長期の休業損害請求
- 事故態様が一般的に小規模損害といわれるもの
- 治療内容や医師の判断
治療費が打ち切られて慌てて対応するよりも、交通事故で大きな怪我をした場合はできるだけ早く交通事故に精通しているHOPE法律事務所へご相談ください。
