慰謝料算定基準~入通院慰謝料③~

2023年9月20日 カテゴリー:入通院慰謝料

交通事故における傷害慰謝料の算定基準には複数ありますので、一般的に用いられている、自賠責基準、任意保険会社基準、裁判所(弁護士)基準のそれぞれの算定の説明や、注意点についてお話させていただきます。
最近は、ご相談者の方も、インターネット等で色んな情報にアクセスできますので「自賠責基準よりも、弁護士さんが使う基準の方が高いんでしょ?」と先にお話いただくこともあります。
確かに一般的には、「自賠責基準<任意保険会社基準<裁判所基準」なのですが、あくまで基準そのものはそうなのですが、実際の賠償金額の計算では必ずしも上記図式が妥当しないこともあります。まずは、自賠責基準の説明となります。
自賠責の基準は、近年改正され、2020年4月1日以降に発生した交通事故については、慰謝料の算定単価は1日4300円となっています。その上で実際の慰謝料の算定は、4300円×2×実通院日数(但し、≦通院期間)で算定されます。
この計算式には2つの上限があります。
1つ目の上限は、通院日数に関する上限です。実通院日数の2倍の日数分4300円の慰謝料が算定されますが、通院期間を越えることができません。
例えば、100日間で合計60回通院した場合、4300円×(2×60日=120日)ではなく、4300円×{(2×60日≦100日)=100日}=43万円となります。そのため、通院回数が多ければ多いほど慰謝料が増えるわけではないんですよね。反対に、通院回数が多すぎると、保険会社による早期保険打切りを招いてしまい、この通院期間の上限による制限を受けてしまいます。
2つ目の上限は、自賠責の補償限度額による上限です。よくある間違いに、「慰謝料って120万円まで補償されるんじゃないの?」というものがあります。自賠責の傷害の補償枠が120万円というのは合っているのですが、この120万円は「治療費、慰謝料、文書料、休業損害などその他損害すべて」が対象となりますので、当然通院回数や治療内容が多ければ、「治療費」が多くなりますので慰謝料の枠も少なくなります。
例えば、首、両肩、腰、両足首の治療をしますと全部で5部位の治療となります。首だけの治療と比較すれば単純に治療費は5倍となります。このような場合には、治療費が半年で50万円かかることも珍しくありません。また、仕事を1カ月程休んで30万円の休業損害が払われた場合には、これも120万円の枠を消費します。このケースでは120万-(50万+30万)=40万しか自賠責の枠が空いておらず、仮に90日実際に通院しても180日分の慰謝料が補償されるわけではないのです。
次に任意保険会社基準ですが、これは基準などといわれていますが、要するに「自賠責基準では納得しない方に、裁判所(弁護士)基準ほど高くはできないので、とりあえず自賠責基準以上の金額を提案する」だけですので基準として独立に扱うのが妥当か疑問です。
最後に、裁判所基準ですが、これは一般に、赤い本「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」に記載されている基準のことを指しています。通院期間を基準に傷害慰謝料の基本的な基準を公表していますが、この基準はあくまで目安であり、傷害の部位・程度などによって増減します。
これらの基準では赤い本の基準を採用すれば賠償金(慰謝料)が上がるのが一般的ですが、必ず上がるというものではありません。その代表的な例は、過失がある場合です。自賠責基準は、基準自体は確かに赤い本の基準より低いです。しかし、自賠責の基準は被害者に過失があっても、過失を考慮せず賠償項目が計算されます。そのため過失が概ね2割を超えると、「示談交渉」では、赤い本より自賠責基準の方が最終的な受取賠償金額が大きい場合が多くなります。その原因は、裁判所基準を用いて相手保険会社と交渉すると、過失の主張を受けますが自賠責基準(補償限度額内だと)ですと過失を主張されないためです。裁判所(弁護士)基準で交渉した場合に主張される過失は、慰謝料だけではなく、治療費、休業損害にも適用されて相手負担額が減りますが、治療費や休業損害は、過失減少分も含めて満額が最初に医療機関や被害者に払われます。そのため、払い過ぎた治療費や休業損害などについては、最終的に被害者が貰える慰謝料から差し引かれるという処理をされてしまいます。
 【例 通院期間:100日 実通院日数50日 過失2割】
自賠責基準:治療費50万、慰謝料43万円→受取慰謝料43万円
弁護士基準:治療費50万円、慰謝料57万6666円→受取慰謝料36万1333円
  {計算}
①過失減少分(治療費+慰謝料=107万6666円)×過失2割=21万5333円
②過失考慮後損害(107万6666円-21万5333円=86万1333円)
③受取慰謝料額{②-既払治療費}(86万1333円-50万円=36万1333円)

このように、必ずしも裁判所基準が有利というわけではありません。きちんとした保障を受けるには、事故からなるべく早く、事故賠償に詳しい弁護士に相談するのが望ましいです。気が付いたら、弁護士を委任する意味がほとんどなかったということを防ぐようになるべく早いご相談をお勧めいたします。